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宇宙ライター林公代の視点 (28) : 「広報する天文学者」の夢をハワイで実現、すばるの「現場」をお届けします 藤原英明さん

2017年6月26日 (ハワイ現地時間)

天文学者+広報+すばる望遠鏡 3つの夢をかなえたきっかけ

  国立天文台ハワイ観測所の広報担当サイエンティスト・藤原英明さんは、高校時代「将来、必ず天文学者になってハワイに行きます!」と宣言している。藤原さんが高校生のころ観測が始まったすばる望遠鏡は、憧れだった。そして広報という仕事にも強い関心があった。天文学者+広報+すばる望遠鏡。それら3つの目標を約 10 年後にかなえてしまう。

  しかし、天文学者やすばる望遠鏡に憧れるのは理解できるとして、広報もセットで目標にする人にはあまりお目にかからない。広報への関心はどこから?


図1

図1: 「自らの手で写真を撮影してお届けするのも大事な広報活動」と、藤原英明さん。


  「中学生の頃に百武彗星やヘール・ボップ彗星という大彗星が話題になり、地元の川崎市青少年科学館 (現・かわさき宙と緑の科学館) で、彗星や小天体の専門家である、国立天文台の渡部潤一さんの講演を聞いたんです。『生身の天文学者』とちゃんとお話ししたのはこの時が初めてでした。渡部さんが憧れの人となり、天文学者になりたいという夢が見えてきました。」

  憧れの渡部さんの本を読み、渡部さんが広報を精力的にやっていることを知り、「自分も天文学者になり、発見や喜びをいろいろな人に伝えたい」と思うようになる。


高校時代の二つのイベント、大学での NPO 活動

  天文学と広報、漠然とした夢が目標となるきっかけが高校時代に経験した二つの天文イベントだ。一つは国立天文台で開かれた「君が天文学者になる3日間」。国立天文台三鷹キャンパスで合宿し観測や討論、発表を行う。その合宿中、ハワイ観測所とテレビ会議でつながった。憧れのすばる望遠鏡の現場で働く人々と生で話せた感動から「ハワイに行きます!」と宣言してしまったのだ。

  また、東京大学天文学教育研究センター木曽観測所が開催する「銀河学校」にも参加。ロマンチックなイメージを抱きがちな天文学だが、解析など地味な作業も体験する。科学の楽しさだけでなく厳しさを肌で感じ、研究現場に近い「生の科学」に触れたことで大きな刺激を受けた。

  二つのイベントを通して天文学者になることを真剣に考えた藤原さんは、念願通り東京大学理学部天文学科に進学。高校時代に生の科学を体験できた自分は恵まれていると思ったし、自分が受けた刺激と感動を次の世代にも伝えたい。藤原さんは、銀河学校の卒業生たちと科学天文教育の NPO 法人「サイエンスステーション」を設立する。柱となる活動の一つに、天文学や物理・化学など様々な専攻の大学 (院) 生を高校に派遣して行う「出前授業」があった。「出前授業で理科の楽しさを」と全国紙に記事が載ると、日本中の高校から依頼が届いた。授業では一般的な話題でなく、研究者の卵として自分が今どんな勉強をしているかなど、学生だからこそ話せる等身大の話を伝えた。「人に伝えるのは面白い」と実感する。

  藤原さんの話には「生の」「現場」という言葉が頻発する。広報の醍醐味や何が求められるかについて、高校~大学までに受け手と送り手の両面から体得したポイントだ。博士号を取得した2010年、ちょうど国立天文台ハワイ観測所で広報担当の募集があり、採用された。


広報と天文学者の二足のわらじ

  藤原さんの仕事は契約上「60% は広報業務、35% は研究」を行うことになっている。しかし現実的には「勤務中は 150% 広報業務」というほど忙しいという。

  情報発信のネタ探しのため論文を読み、リリース原稿作成を研究者と伴走する。望遠鏡や装置、現場で働く人の写真はもちろん、国際宇宙ステーションがすばる望遠鏡上空を通るタイミングも逃さず撮影する。さらにウェブサイトの管理、Twitter の「中の人」、講演依頼が来ればハワイの正装アロハシャツ姿でこなす。プレスリリース発信時は問い合わせ先になっているから、夜中でも日本からの連絡に備えていなくてはならないし、取材に訪れるメディアにも対応する。つまり広報に関わることは、「なんでもやる」状態でエンドレス…。

  それでいて、本職の研究に関しては招待講演の依頼があるほど、第一線の成果をあげている。藤原さんが注目しているのは、恒星の周りにある塵粒の円盤。円盤には塵が衝突合体し惑星に育つ過程の「原始惑星系円盤」もあれば、惑星になれなかった破片の塵からできる「デブリ円盤」もあり、どちらも惑星形成の貴重な現場。特に塵の鉱物学特性というユニークな観点から独自の分野を切り拓いてきた。

  すばる望遠鏡はもちろん、日米の赤外線宇宙望遠鏡、南米チリの VLT、フランスの電波望遠鏡とあらゆるツールを駆使する。観測提案書の準備や観測、解析と忙しい上に「太陽系内天体のことをもっと勉強したい」と台湾の大学に飛び、専門家と議論を重ねる。最近は、塵粒の円盤と共通点があるはずだと土星の環に関する論文を出版し、ハワイの地元紙でも大きく紹介された。


図2

図2: 南米チリのヨーロッパ南天天文台で開かれた研究会での一コマ。この研究会で発表した内容がのちの論文出版につながり、さらには惑星科学者との共同研究のきっかけになったとか。


  いつ研究しているんですか?と聞けば、「夜か、週末」。どうしてもまとまった時間が必要な時は「籠る」のだとか。そんな時でも緊急の広報対応はできるようにしている。「ハワイ観測所に勤める研究者は、自身の研究だけでなくそれぞれ業務がある。体力がないと大変だが、第一線の研究をしている人が多い」(藤原さん)。ハワイ観測所はタフな天文学者の集まりなのだ。


自分の憧れ、すばる望遠鏡の成果を多くの人に届けたい

  すばる望遠鏡の広報担当サイエンティストとして働く藤原さん。広報の面白さは「様々な研究成果をいち早く知ることができること。プレスリリース準備の過程で研究チームからその興奮を感じられるのは役得です。」そして醍醐味を感じるのは、すばる望遠鏡の成果を知った人がソーシャルメディアなどで『面白い』『スゴい』『すばる頑張れ』などと言ってくれたとき。「反応を直接見られるのは励みになります」と顔がほころぶ。

  「自分にとって憧れの存在だったすばる望遠鏡の成果を多くの人に伝えたいし、望遠鏡を支える人や環境、観測の様子も活きた形で伝わるよう工夫したい」と広報へのやる気は衰え知らず。

  広報と研究の二足のわらじで趣味のゴルフやシュノーケリングをする余裕がないが、「週末は音楽が好きな小さな息子と一緒に歌いながら、時間を見つけて細々と研究も進めています」と。愛息子が最大の癒しであり、やる気の原動力になっている様子。二足のわらじをすり減らしても何のその、これからも私たちをわくわくする天文学の世界に導いてくれそうだ。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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