観測成果

73 億光年かなたにそびえる超銀河団の全貌

2019年10月22日 (ハワイ現地時間)

  国立天文台、東北大学、台湾中央研究院天文及天文物理研究所 (ASIAA) の研究者からなる共同研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) による撮像観測から、約 73 億光年かなたの超銀河団 CL1604 の全貌を明らかにしました (図1)。すばる望遠鏡とジェミニ北望遠鏡を用いた分光追観測も合わせて、その存在がもともと知られていた CL1604 超銀河団は「氷山の一角」を見ていたにすぎず、南北方向にさらに2倍以上の領域に広がった宇宙の大規模構造であることが分かりました。お互いに影響を及ぼさないと思える広大な領域の端々で、同時期に銀河が形成されていたと考えられます。今後、HSC によってますます広い領域が観測されると、宇宙の大規模構造の成長と銀河の成り立ちとの関係がさらに明らかになると期待されます。


図1

図1: 超銀河団領域の銀河の個数密度分布を示す3次元および2次元図です。2次元分布では、奥行方向から約 73 億光年付近のみを切り出した大規模構造を示しています。白の領域は先行研究によって既知であった領域であり、黄色の領域が本研究によって分光確認された超銀河団領域です。さらに、HSC 撮像データからは、北東および南西にも伸びた構造が見つかっていますが、これらは今後分光追観測による確認作業が必要です。図の中の白い縦線が約 3000 万光年 (10 メガパーセク) の距離に相当します。(クレジット:国立天文台)



  宇宙では銀河は一様に分布しておらず、銀河団のように天体が密集した領域や、逆に天体がまばらな領域からなる網の目状の大規模構造が見られます。銀河の性質は周囲の環境から影響を強く受けていることが知られており、銀河の成り立ちは宇宙の大規模構造と密接に関わっていると考えられます。しかし、時々刻々と成長を続ける宇宙の大規模構造の中で、銀河がどのように生まれ成長していくのかは、いまだに銀河天文学の重要な研究テーマの一つです。

  宇宙の大規模構造や銀河の成り立ちを理解するためには、遠方宇宙を広範囲にわたって観測し、昔の姿を明らかにすることが有効です。それを可能にするのが、現在進められている HSC を用いたすばる望遠鏡戦略枠サーベイです。これまでに知られている数少ない遠方宇宙の超銀河団の中で、ヘルクレス座にある CL1604 超銀河団が観測領域に含まれています。約 73 億光年かなたの超銀河団 CL1604 は、3つの銀河団と少なくとも5つの銀河群からなり、約 8000 万光年の領域に広がると考えられてきました。遠方宇宙における最も大規模なスケールの構造の一つです。

  国立天文台の林将央さんと小山佑世さんを中心とする研究チームは、HSC 戦略枠サーベイのデータを用いて、銀河の色に基づく「測光的赤方偏移」の手法により、私たちから約 73 億光年の距離にある銀河を選びました。その結果、既に知られている CL1604 超銀河団領域の北側と南側にも銀河が密集した領域が存在し、宇宙の大規模構造が南北方向へさらに広がっていることを発見しました (図1)。少なくとも 1000 天体以上の銀河の集団からなる大規模な構造です。

  さらに研究チームは、銀河団候補領域にある銀河の距離を正確に決めるため、ハワイ島マウナケア山頂の望遠鏡群を利用しました。すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置 FOCAS とジェミニ北望遠鏡のジェミニ多天体分光装置 GMOS-N の力を合わせて、北側の銀河団候補1領域と南側の3領域で分光観測を行い、計 137 個の銀河の距離を精密に測定しました。その結果、銀河が奥行き方向にも群れをなしていることがわかり、3次元的にも複数の銀河団の集団であることが確認されました (図2)。


図2

図2: 分光観測によって同定された銀河の赤方偏移 (奥行方向の距離) の分布です。各観測領域で、銀河団であること示す分布のピークごとに色分けされています。同じ色のヒストグラムは、天球面上の場所によらず、同等の赤方偏移に存在する銀河団であることを表しています。(クレジット:国立天文台)


  分光観測で得られた銀河のスペクトルからは、銀河の星形成活動の歴史や銀河内の恒星の年齢を推定することもできます。解析の結果、CL1604 超銀河団にある銀河は約 20 億年より古い年齢の恒星からなり、どの銀河でも恒星の年齢は同等であることが分かりました。約 1.6 億光年にもわたる非常に大きなスケールで銀河が同時期に形成されたと考えられます。

  現在の宇宙では、私たちの住む銀河系はおとめ座銀河団のはずれにある小さな銀河の群れの一つです。しかし、この銀河の集団全体は、さらに巨大な「ラニアケア超銀河団」という構造の一部であることが、ハワイ大学などの研究チームによって最近明らかになりました。今回発見した 73 億光年かなたの巨大構造は、ラニアケア超銀河団のような大構造の祖先の姿かもしれません。

  研究チームの林将央さんは、「この研究は HSC 戦略枠サーベイ観測の一部の領域のデータを使って得られた成果です。サーベイ観測領域の全域で研究を行うことで、未知の大規模構造が宇宙のさまざまな時代で次々と見つかってくることが期待されます。その大規模構造をなす銀河の性質を調べ、宇宙の大規模構造の成長と銀河の成り立ちのさらなる解明を目指します」と語っています。


  本成果は、日本天文学会の発行する『Publications of the Astronomical Society of Japan (欧文研究報告)』のオンライン版に2019年9月23日付で掲載されました (Masao Hayashi, Yusei Koyama, Tadayuki Kodama, Yutaka Komiyama, Yen-Ting Lin, Satoshi Miyazaki, Rhythm Shimakawa, Tomoko L. Suzuki, Ichi Tanaka, Moegi Yamamoto, Naoaki Yamamoto, "The whole picture of the large-scale structure of the CL1604 supercluster at z∼0.9")。論文のプレプリントはこちらから閲覧可能です。


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