観測成果

初期宇宙で見つかった宇宙網
-銀河とブラックホールに恵みをもたらす宇宙の清流-

2019年10月3日 (ハワイ現地時間)

  理化学研究所、国立天文台などの国際共同研究チームは、アルマ望遠鏡、すばる望遠鏡、欧州の VLT 望遠鏡などを駆使した観測によって、地球から 115 億光年離れた宇宙において、銀河と銀河をつなぐように淡く帯状に広がった「宇宙網」と呼ばれる水素ガスの大規模構造を初めて発見しました (図1)。

  宇宙網の観測は、銀河形成モデルを検証し、過去の宇宙における銀河と巨大ブラックホールの形成、進化を解明する上で欠かすことができませんが、宇宙網が放つ光は非常に弱く、これまで観測は困難を極めてきました。今回、研究チームは、みずがめ座の方向にある遠方銀河が群れ集まった領域である原始銀河団 SSA 22 に注目し、X 線からミリ波にわたる幅広い波長にわたる多様な観測によって、18 個の活発な星形成銀河や巨大ブラックホールが 400 万光年の範囲で宇宙網に沿って形成されていることを突き止めました。初期宇宙における銀河や巨大ブラックホールの成長の源となったガスの供給機構の解明に大きく貢献すると期待される、重要な成果です。


図1

図1: 今回、地球から 115 億光年離れた宇宙において見つかった「宇宙網」と呼ばれる水素ガスの大規模構造。青い部分が水素ガス、背景がすばる望遠鏡 Suprime-Cam による可視光観測で得られた天体地図。(クレジット:理化学研究所)



  地球から 100 億光年以上離れた太古の宇宙では銀河が活発に生まれ育つ時代があったことが、これまでの宇宙の観測から分かってきています。その初期宇宙には、私たちの住む天の川銀河の数百倍から数千倍もの速さで星を生み出す銀河が存在し、一方、銀河の中心では太陽の約1億倍という大きな質量を持つ巨大ブラックホールが急速な成長を遂げていたと考えられています。

  これらの銀河や巨大ブラックホールを成長させるために欠かせない原材料が、水素を主成分とするガスです。現在の銀河形成モデルによると、このガスが「宇宙網」と呼ばれるクモの巣状のネットワークを形成し、その中でガスの凝集が進み、銀河や巨大ブラックホールが形成・成長すると考えられてきました (図2)。

  したがって、宇宙網の観測は、銀河形成モデルを検証し、過去の宇宙における銀河と巨大ブラックホールの形成、進化を解明する上で欠かすことができない重要な鍵だといえます。しかし、宇宙網が放つ光は非常に弱く、最大級の望遠鏡の集光力をもってしてもこれまで観測は困難を極めてきました。


図2

図2: 宇宙網のシミュレーションの例。水素を主成分とするガスがクモの巣状のネットワークを形成し、その中でガスが濃くなった場所 (茶色の領域) で銀河やブラックホールが作られ、成長すると考えられています。(クレジット:理化学研究所)


  国際共同研究チームは、みずがめ座の方向、地球から 115 億光年離れた SSA 22 原始銀河団に注目し、宇宙網の検出に挑みました。この領域は、これまでにも活発に星を生み出している銀河や成長を続ける巨大ブラックホールの存在が知られており、その周囲に宇宙網が存在しているかどうかが大きな関心事となっていました。

  まず、活発な銀河や巨大ブラックホールがどのようにどれだけ分布しているのかを示す、銀河と巨大ブラックホールの地図の作成を行いました。この際に活躍した望遠鏡がアルマ望遠鏡です。アルマ望遠鏡を使ったミリ波の観測により、星から温められた塵を捉えることで活発に星を生み出している銀河を見つけることができます。

  さらに X 線による巨大ブラックホールの探査を行い、また見つけた天体までの距離を決定する分光観測をミリ波や赤外線で行いました。その結果、400 万光年ほどの範囲に、18 個の活発な銀河や巨大ブラックホールが密集して存在していることが明らかになりました (図3)。

  一方、宇宙網を捉えるには可視光による観測が必要になります。宇宙網の主な成分である水素ガスは銀河や巨大ブラックホールからの光を受けて、紫外線の波長域で発光することが知られています。遠方宇宙からの光は宇宙膨張によって波長が長くなり、可視光でこの光を観測することができるからです。すばる望遠鏡の広視野カメラ Suprime-Cam (シュプリーム・カム) でこれまでに撮像された画像を解析した結果、銀河や巨大ブラックホールをつなぐように、広がった水素ガスの光がおぼろげながら見えてきました (図4)。


図3

図3: ミリ波 (左) と X 線 (右) で見た観測領域の画像。115 億年光年先で見つかった活発な星形成銀河の位置を白丸、巨大ブラックホールの位置を白の四角で示しています。画像の縦・横の長さは、およそ 450 万光年・300 万光年であり、この範囲に 18 個の銀河、巨大ブラックホールが集中している様子が分かります。可視光による水素ガスの観測は、内側の点線の範囲で行われました。(クレジット:理化学研究所)


図4

図4: すばる望遠鏡 Suprime-Cam で撮像された画像で見えてきた、広がった水素ガスの光。(クレジット:理化学研究所)


  この光をさらに詳しく調べるため、欧州の VLT 望遠鏡による追観測を行いました。VLT 望遠鏡に搭載された MUSE という観測装置を使うことで、2次元の画像だけでなく、スペクトルを含む3次元の情報を一気に得ること (面分光) ができます。その結果、水素ガスの大規模な帯状の構造が存在することが初めて確かめられました。

  こうして、X 線、可視光、赤外線、ミリ波とさまざまな観測を組み合わせることで、星形成の活発な銀河、巨大ブラックホール、宇宙網を網羅した3次元地図を描き出すことができました (図5)。銀河や巨大ブラックホールは、例外なく宇宙網に沿って分布していることが明らかになりました。

  この結果は、宇宙網に沿ってガスが銀河や巨大ブラックホールに流れ込み、そのガスを材料として銀河や巨大ブラックホールが成長するという理論・シミュレーションによる予測を観測の面から支持するものです。また、数多くの銀河や巨大ブラックホールに由来する光によって、宇宙網が明るく照らされていたことが、今回の検出につながったと考えられます。

  本研究では、さまざまな波長の観測を駆使し、存在が予想されながらも検出することが難しかった宇宙網の姿を詳細に浮かび上がらせることに成功しました。このことは、銀河形成理論を観測的に検証していく上で強力な道具を手に入れたことを意味します。今後、初期宇宙でどのように銀河や巨大ブラックホールが形作られていったのか、宇宙網がその進化をどのように制御したのか、さらに詳しく調べられていくものと期待されます。


図5

図5: 今回見つかった宇宙網の3次元分布の様子。青色が比較的淡く見える部分、紫色が比較的明るく見える部分を表しています。銀河や巨大ブラックホール (赤の四角印) が、宇宙網に沿って分布していることが分かります。(クレジット:理化学研究所)



  本研究成果は、米国の科学誌『サイエンス』(2019年10月4日号) への掲載に先立ち、オンライン版 (10月3日付:日本時間10月4日) に掲載されます (H. Umehata, M. Fumagalli, I. Smail, Y. Matsuda, A. M. Swinbank, S. Cantalupo, C. Sykes, R. J. Ivison, C. C. Steidel, A. E. Shapley, J. Vernet, T. Yamada, Y. Tamura, M. Kubo, K. Nakanishi, M. Kajisawa, B. Hatsukade, and K. Kohno, "Gas filaments of the cosmic web located around active galaxies in a protocluster")。

  本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 JP17K14252, JP25287043, JP17H04831, JP17KK0098, JP19K03925, JP17H06130, JP17H06130 および国立天文台アルマ共同科学研究事業 2018-09B による支援を受けて行われました。


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