観測成果

すばる望遠鏡 HSC で見えてきた、急成長を遂げつつある銀河と超巨大ブラックホール

2015年8月26日 (ハワイ現地時間)

概要

  愛媛大学、プリンストン大学、国立天文台などの研究者からなる国際研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム, HSC) で得られた観測データを用いて、従来は観測が困難だった塵に覆われた銀河 (Dust Obscured Galaxy, DOG) の探査を行いました。その結果、塵に覆われた銀河を新たに 48 個発見し (図1)、それらの統計的性質を世界で初めて明らかにしました。見つかった銀河の赤外線光度は太陽の 10 兆倍以上にもなると推定され、銀河の中心部には、急成長を遂げつつある超巨大ブラックホールが存在すると考えられます。今回の成果は、銀河と巨大ブラックホールの進化を知る上で大きな手がかりを与えてくれるものです。


図1

図1: 本研究で見つかった塵に覆われた銀河 DOG の一部の可視光線 (左: HSC)、近赤外線 (中央: バイキング)、中間赤外線 (右: ワイズ) 画像。各画像の視野は 20 秒角 (1秒角は1度の 3600 分の1)。DOG は可視光線で暗い一方で中間赤外線で明るく輝いています。(クレジット:愛媛大学/国立天文台/NASA/ESO)



銀河と超巨大ブラックホールの共進化

  宇宙の基本的な構成要素である銀河が、いつ・どのように形成し、成長していったのかを解明することは、現代天文学における最重要テーマの一つです。最近の研究から、ほぼ全ての銀河の中心部には太陽の 10 万倍から 10 億倍もの質量を持つ「超巨大ブラックホール」が潜んでいること、しかもその質量は銀河の質量と強い相関を示すことが分かってきました。このことは、銀河とその中心に潜む超巨大ブラックホールがお互いに影響を及ぼし合いながら成長してきたこと (「共進化」と呼びます) を示唆しています。銀河進化の全貌を正しく理解するためには、銀河に影響を及ぼす超巨大ブラックホールが銀河とどのような物理過程を経て共進化しているのかを理解することが必要不可欠です。


塵に覆われた銀河

  そこで愛媛大学宇宙進化研究センターの鳥羽儀樹さんを中心とする研究チームは、「DOG」と呼ばれる塵に覆われた銀河に着目しました。この天体は可視光線で極めて暗いにも関わらず、赤外線で明るいという特徴をもつ銀河です。理論的な研究から、特に赤外線で明るい DOG 中に潜むブラックホールは、今まさに急成長しているような「成長期ブラックホール」であることが期待されています。

  また、DOG の多くは、銀河の星生成活動が最も活発だったと考えられている時代 (80-100 億年前の宇宙) に集中的に存在していたことも知られています。このことから、赤外線で明るい DOG およびその中心に潜むブラックホールは、両者が共に急成長しているような興味深い段階にあり、共進化の物理を解明する上で重要な「共進化途上期」にあると期待できます。しかし、DOG は可視光線で非常に暗い上に空間個数密度も低いため、可視光線における従来の探査では、多数の DOG を発見してその統計的性質を明らかにすることが困難でした。


すばる望遠鏡 HSC を用いた塵に覆われた銀河探査

  2012年にファーストライトを迎えた HSC は、満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる世界最高性能の超広視野カメラです。現在すばる望遠鏡では、HSC を使った「すばる戦略枠観測プログラム (注1)」が進行中で、300 夜にも及ぶ観測からこれまでに類をみない視野の広さと高い検出感度を兼ね備えたデータが得られます。また、これまでの可視光線探査では発見が困難だった DOG を多数発見できることも期待され、共進化途上期にある天体を理解する上で最も強力な可視光線データとなります。

  研究チームはこの戦略枠観測で得られた初期データを用いて、DOG の探査を遂行しました。具体的には、NASA の赤外線天文衛星「ワイズ」(注2) と ESO の広域近赤外線探査計画「バイキング」(注3) で得られたデータを併用することで、「赤外線が可視光線の約 1000 倍以上の強さのエネルギーを放射している天体」を DOG として選出しました。その結果、新たに 48 個の DOG を発見することに成功しました。

  選出された DOG の赤外線光度は太陽の 10 兆倍以上にもなると推定され、DOG が極めて明るい天体種族であることが分かりました。また、選出された DOG の個数密度 (1立方ギガパーセクあたり約 300 個) を世界で初めて決定しました (図2)。DOG の明るさの波長依存性や個数密度の光度依存性などを踏まえると、これらの赤外線で極めて明るい DOG の中心部に急成長を遂げつつある巨大ブラックホールが潜んでいると考えられます。この成果は銀河と巨大ブラックホールの共進化の謎を解明する上で、これまでにはない観測的視点から大きな手がかりを与えうるものです。特に赤外線で非常に明るい塵に覆われた銀河に本当に活動的なブラックホールが潜んでいるのかはこれまで謎でしたが、今回の研究によってその存在が確認できた点は大きな成果だと言えます。


図2

図2: 今回新たに発見された DOG の個数密度 (1立方ギガパーセクあたりの個数) を赤外線光度の関数として示した図です。1ギガパーセクは約 3×1025 メートル。図の右下 (明るくて個数が少ない) の★印が今回の研究で新たに見つかった DOG に対応しています。 今回見つかった DOG は、(1) 太陽光度の 10 兆倍以上の明るさをもつこと、(2) 個数密度は1立方ギガパーセクあたり約 300 個であることが分かりました。(クレジット:愛媛大学/国立天文台/NASA/ESO)



まとめと今後の展望

  本研究により、赤外線で明るい塵に覆われた銀河 DOG を 48 個発見し、その統計的性質について新たな知見を得ることができました。「HSC の性能を上回るカメラは現状では存在しないため、DOG 探査という点では HSC の独壇場と言えます。戦略枠観測終了時には、数千個の DOG の発見が見込まれています。今後は、史上最大規模の DOG サンプルに対して、X 線などの多波長データを併用することで、DOG やその中心に潜むブラックホールの性質をより詳細に調べていきたいと考えています」と鳥羽儀樹さんは意気込みます。

  また、同研究チームの長尾透さん (愛媛大学宇宙進化研究センター) は、「HSC による戦略枠観測は動き出したばかりです。今後、銀河進化の分野以外でも、太陽系から宇宙論に至るまで、多岐に渡る分野で魅力的な研究成果が出てくると期待しています」と戦略枠観測への期待を寄せています。


  この研究成果は、2015年10月25日に発行される天文学誌『日本天文学会 欧文研究報告 (PASJ) すばる特集号』に掲載予定です (Toba et al. 2015, "Hyper-luminous Dust Obscured Galaxies discovered by the Hyper Suprime-Cam on Subaru and WISE", Publications of the Astronomical Society of Japan, 67巻, 5号)。論文のプレプリントはこちらから入手可能です。また、この研究成果は、科学研究費補助金・若手研究 A (25707010) および公益財団法人 山田科学振興財団による助成を受けて行われたものです。


(注1) すばる戦略枠観測は、すばる望遠鏡の観測時間の 300 夜分を投入し、これまでに類をみない広さと高い検出感度を兼ね備えた、HSC による広域可視光線撮像計画です。2014年3月に開始された HSC によるすばる戦略枠観測は順調にデータの取得を続け、感度の高さと探査面積の広さを兼ね備えた驚くべき画像データが次々に得られてきています。

(注2) 赤外線天文衛星ワイズは2009年に打ち上げられた NASA の赤外線天文衛星です。3.4, 4.6, 12, 22 マイクロメートルの4波長で全天を撮影し、7億天体以上の赤外線源 (赤外線で明るく輝いている天体) を観測しました。

(注3) バイキングはヨーロッパ南天天文台 (European Southern Observatory, ESO) のビスタ望遠鏡を用いた広域近赤外線探査計画の名称です。5つの波長域で観測を実施し、現在までに1千万個以上の天体を観測しています。


研究チームの構成

  • 鳥羽 儀樹 (愛媛大学 宇宙進化研究センター・特定研究員)
  • 長尾 透 (愛媛大学 宇宙進化研究センター・教授)
  • マイケル・ストラウス (プリンストン大学 天体物理学科・教授)
  • 青木 賢太郎 (国立天文台 ハワイ観測所・シニアサポートアストロノマー)
  • 後藤 友嗣 (國立清華大學 物理学科・助教)
  • 今西 昌俊 (国立天文台 ハワイ観測所・助教)
  • 川口 俊宏 (札幌医科大学 医療人育成センター・講師)
  • 寺島 雄一 (愛媛大学 大学院理工学研究科・教授)
  • 上田 佳宏 (京都大学 大学院理学研究科・准教授)

他 25 人


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