観測成果

すばる望遠鏡、太陽型星をめぐる惑星候補を直接撮像で発見
~新装置HiCIAOで第二の太陽系探しを開始~

2009年12月3日

概要:
 国立天文台、ドイツ・マックスプランク研究所などの研究者からなる研究チームが、すばる望遠鏡に搭載された新コロナグラフ撮像装置HiCIAOを用いて、太陽型星を周回する惑星候補天体を直接撮像により発見しました。発見されたのは木星質量の約10倍と推定される2つの惑星候補天体で、主星からの距離は、太陽系でいうと海王星と天王星の距離に相当します。その温度は摂氏約330度であり、これまでに太陽型星の周りで発見されてきた伴星に比べると非常に低温です。太陽型星の周りに、今回ほどはっきりとした惑星候補天体が写し出されたのは初めてのことです。我々の太陽系とよく似たサイズの惑星系において、木星よりも巨大な惑星候補が発見されたことは、現在の惑星系形成理論では説明が困難であり、今後の研究に大きなインパクトを与えるものです。この研究には、従来のコロナグラフを超える高い性能をもつHiCIAOと、大気による星像の乱れをリアルタイムで補正する補償光学装置の組み合わせが威力を発揮しました。すばる望遠鏡では、同装置を用いた太陽系外惑星の直接撮像探査を集中的に行うプロジェクトが今年10月から開始されており、太陽系に似た惑星系は普遍的かどうかが解明できると期待されます。

 この観測成果は、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レター」に掲載予定(2009年11月5日受理済)です(論文筆頭者:C. タールマン)。


本文:
 太陽系外にある恒星を周回する惑星(系外惑星)の候補天体の数は、2009年11月現在、既に400個を越えました。これらのほとんどは「間接的」観測、すなわち、惑星の公転運動による恒星の速度ふらつきを高精度分光観測で測定するドップラー法や、惑星が恒星前面を通過する際の明るさの変化(食)を検出するトランジット法によるものです。いっぽう、系外惑星を「直接画像に写す」ことは、明るく輝く恒星がごく近くにあるため、非常にチャレンジングです。しかし、惑星の明るさ、温度、軌道、大気など重要な情報がダイレクトに得られるため、直接撮像は究極の系外惑星観測方法とも言え、かつ、「百聞は一見に如かず」という魅力があります。

 系外惑星の直接撮像観測へのアプローチは近年激しい競争が続いていました。2005年には、若い褐色矮星を周回する4木星質量の伴星や、若い恒星のまわりで10~数10木星質量程度の伴星が主星から100AU(1AUは地球・太陽の距離)以上も離れている例がいくつか発見されましたが、これらは必ずしも惑星の直接撮像とはみなされていませんでした。2008年には、3つのA型星(太陽の2倍程度の質量を持つ恒星)の周りを公転する惑星候補が、ジェミニ望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡などで報告され、そのうち、HR8799を周回する3惑星については、すばる望遠鏡などでもその存在が確認されています。それらは7~10木星質量で、24~68AUの距離にあります。しかしながら、太陽のようなG型星の近傍(太陽系の大きさ程度)を周回する惑星候補天体の撮像の報告はこれまでにありませんでした。

 今回、国立天文台を中心とする日本チームは、独・米の国際チームとともに、こと座の方向、地球から50光年離れたG型星(GJ758)を周回する惑星候補GJ758B(注1)を直接撮像観測により世界で初めて発見しました(図1)。その温度は絶対温度600K(摂氏約330度)くらいしかない(注2)と推定されます。これまでに撮像されたG型星の伴星天体の温度としては最低記録です。図2は、太陽系の太陽・木星・地球と比較した、GJ758惑星系の想像図です。図3に、天球上でのGJ758の位置を示しました。

 2009年5月と2009年8月の2回の観測から、候補天体は背景星でないことも確認されています。惑星候補と主星までの見かけの距離は29AUしかなく、ほぼ海王星の軌道半径と同じ、すなわち、太陽系とほぼ同じサイズの惑星系と言えます。惑星の質量は明るさと年齢から推定されますが、主星であるGJ758の年齢がはっきり決まらないために、推定される質量にも幅があります。年齢が7億年の場合には木星質量の約10倍となり、巨大惑星候補と呼ぶことができます(誤差の範囲で最も高い年齢(87億年)をとった場合には40木星質量程度となります:注3)。これらの観測は全て、すばる望遠鏡において本格稼動した新しい系外惑星用観測装置HiCIAO(ハイチャオ)を用いて行われました。

 いっぽう、2009年8月の観測では、もうひとつ、GJ758Bとほぼ同じ質量で、さらに内側(18AU、ほぼ天王星の軌道)にあるGJ758Cも発見されました。この惑星候補は固有運動のチェックが必要ですが、(少なくとも)2惑星から成る惑星系である可能性があります。

 本発見によって、ドップラー法などの間接法だけでは得られない相補的な情報を得ることが可能になり、太陽型恒星の惑星系のより深い理解が進むでしょう。このような直接観測を続けることによって「宇宙の中で、太陽系は普遍的な存在なのか?」に迫ることが可能になります。すばる望遠鏡では、新装置HiCIAOと補償光学を用いた戦略的観測プログラム「SEEDS(シーズ)」が10月より開始されたばかりです。今後5年間にわたって約500個の(主に太陽型の)恒星を周回する惑星や円盤を探査する計画です。この「直接」観測によって数多くの惑星候補天体を発見し、上記の問に答えるのみならず、惑星の誕生現場である原始惑星系円盤から惑星が誕生する過程も解明することができると期待されます。なお、SEEDSは、日米独英の多国間国際協力により進めています。

HiCIAO(ハイチャオ)とは:
 系外惑星や星周円盤を観測するためには、すぐ近くにある明るい恒星からの光が邪魔となります。そのために、明るい恒星からの光を遮り、近くの惑星・円盤を検出するための特殊な技術、コロナグラフ、が必要となります。2009年7月に日本でも見られた皆既日食は、明るい太陽の光を月が遮る自然のコロナグラフと言えます。

 すばる望遠鏡には世界の8m級望遠鏡に先駆けて専用コロナグラフ(CIAO:チャオ)が2001年より設置されていました。今回、従来のコロナグラフだけでなく、いろいろな差分撮像(波長、偏光、角度差分撮像法;いずれも明るい恒星からの光の影響を低減する手法)の先端技術も利用できるように開発されたのが新装置HiCIAO(ハイチャオ)です(図4および5)。HiCIAO (ハイチャオ)は高コントラストコロナグラフ撮像装置(High Contrast Instrument for the Subaru Next Generation Adaptive Optics)の略称です。文部科学省科学研究費特定領域研究(太陽系外惑星科学の展開)に基づき5年間で開発されたこの装置は、従来のコロナグラフ性能を10倍以上も上回ります。2008年12月に、大気揺らぎをリアルタイムで補正する補償光学装置AO188との組み合わせ初観測に成功し、その後、上記の性能を確認する調整観測を進めていました。本成果はその期間に得られたものです。


本研究者リスト(日本機関は機関別、アイウエオ順)
神鳥亮、日下部展彦、工藤智幸、鈴木竜二[HiCIAO開発専任担当者]、周藤浩士、田村元秀[HiCIAO責任者、SEEDS責任者]、早野裕[補償光学系責任者]、森野潤一、S. エグナー(以上、国立天文台)、橋本淳(総合研究大学院大学)

C. タールマン(論文筆頭者)、J. カーソン、M. ヤンソン、後藤美和、M. フェルト、T. ヘニング、H. クラー、C. モダシーニ (以上、独、マックスプランク天文学研究所)、M. マクエルワイン(米、プリンストン大学)、K. ホダップ(米、ハワイ大学)


注1: 主星GJ758Aのパラメータ

スペクトル型 G9型
距離 50光年
質量 0.97太陽質量
半径 0.88太陽半径

注2: 絶対温度600Kは、オーブンの温度、あるいは、水星の昼側の温度に対応する。


注3: GJ758とHR8799の3惑星との比較

直接撮像観測では、天体の明るさと年齢から惑星質量を求めるため、年齢の不定性に伴う質量の不定性があることに注意が必要である。最大値は、主星の年齢が推定の最大値を採用した場合の惑星候補の質量を表す。なお、HR8799の3惑星はHiCIAOによってもそれらの存在が確認されている。

GJ758
HR8799
主星
質量 (太陽質量)
主星
質量 (太陽質量)
A
0.97
A
1.5
伴星
質量 (木星質量)
主星からのみか
けの距離 (AU)
伴星
質量 (木星質量)
主星からのみか
けの距離 (AU)
B
10 (最大値 40)
29
B
7 (最大値 36)
68
C
12 (最大値 47)
18
C
10 (最大値 50)
38
-
-
-
D
10 (最大値 50)
24


図1

図1: HiCIAOで撮像された太陽型星GJ758の惑星候補天体(BとC)の画像。2009年8月の観測データ。主星の明るい光はコロナグラフ技術により取り除かれている。観測波長は近赤外線。 惑星候補天体Bについては、この恒星に付随している天体であることが確認されているが、Cについては今後の追観測が必要である。

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図2

図2: GJ758と太陽系天体の大きさの比較。惑星候補天体GJ758Bは摂氏330度程度なので、熱放射で赤黒っぽく見えると考えられている。その直径も木星とほぼ同じと予想される。


図3

図3: GJ758の天球上での位置。主星は、こと座の方向、約50光年の距離にある太陽型の恒星である(注1参照)。


図4

図4: 新装置HiCIAOの概念図。従来のコロナグラフのほか、差分光学系により大気揺らぎによる星像ノイズの低減機構、世界最大級(2048x2048素子)の赤外線アレイ検出器、地上天文装置で初めて実用化されたASIC検出器制御系(IC化された検出器コントローラ)を備えた新進気鋭の赤外線観測装置である。


図5

図5: ナスミス焦点に設置されたHiCIAOの画像。左の黒い巨大な箱が補償光学装置(AO188)。中央の黒い部分が常温光学系、右の青い部分には低温光学系および検出器系が冷却・内蔵されている(赤外線カメラ)。望遠鏡からの光は左側から入って来て、上記光学系を経て、検出器上に結像される。HiCIAOは、いわば、系外惑星撮像カメラである。



補足資料: 系外惑星検出の動画 exoplanets.wmv (ファイルサイズ:約107MB)





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