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ノーベル物理学賞受賞者・パールムッター博士、すばる望遠鏡を語る

2011年12月29日

  2011年のノーベル物理学賞は、遠方超新星の観測により宇宙膨張の加速を明らかにしたとして、ソール・パールムッター博士 (米国・カリフォルニア大学バークレー校/ローレンスバークレー国立研究所)、ブライアン・シュミット博士 (オーストラリア国立大学)、アダム・リース博士 (米国・ジョンズホプキンス大学) の3氏に授与されました。

  観測・理論・シミュレーション天文学の様々な分野で日本の研究者が活躍していますが、2011年のノーベル物理学賞の対象になった研究では、現在、日本の研究者たちが強力なメンバーとしてパールムッター博士のチームに参加しており、またその中ですばる望遠鏡が重要な役割を果たしています。遠方超新星の観測を通じて宇宙観の広がりを支えてきたすばる望遠鏡の成果や、またその中で育まれてきた人と人とのつながりについて、パールムッター博士にお話を伺いました。




――パールムッター博士にとって、すばる望遠鏡はどのような存在でしょうか?
  まずみなさんに是非お伝えしたいのは、超新星を使った距離の測定を行う私たちにとってすばる望遠鏡は、ずっと待ち望んでいた夢の望遠鏡だということです。すばる望遠鏡が備える広い視野と、8メートルの大口径の組み合わせは、今日、地上望遠鏡の中で遠方の超新星の研究をするのに最強の組み合わせだと思います。2002年に行ったすばる望遠鏡による観測では、ハッブル宇宙望遠鏡による観測を統計的な数で凌駕する、たくさんの遠方超新星を見つけることができました。そして、すばる望遠鏡は複数の装置をもっていることも大きな特長です。広い視野を一度に撮影することができる主焦点カメラ Suprime-Cam による超新星の発見だけではなく、分光装置 FOCAS によるスペクトル観測もとても重要な役割を果たしています。超新星の分光観測はとても難しく、すばるのような大きな望遠鏡でしかできません。特に、ドーム構造まで配慮したすばる望遠鏡のシーイング (大気のゆらぎにより、星の像が広がってしまうこと) 制御はとても素晴らしく、遠方の超新星の分光観測は他の望遠鏡に比べとても優れています。

――すばる望遠鏡との共同観測はどのようにして始まったのですか?
  1997年に京都で開かれた IAU (国際天文学連合) の総会がはじまりだと思います。その頃、私たちは宇宙加速膨張発見について発表しようと準備していた時期でした。この学会で、私たちは驚くべき観測結果の意味を理解し始めていたのです。(編者補足:宇宙年齢と現在の膨張速度が合わないことがこの学会で議論されていました。) また私たちはこの学会で、東京大学の岡村定矩さんや土居守さんと出会いました。彼らとはとても実りのある議論があり、共同研究を始めたらとても有意義なものになるであろうことは明らかでした。また吉井譲さんによる、活動銀河の変光時間差観測による距離の観測も大変魅力的な手法で、興味を持ちました。
  Suprime-Cam がすばる望遠鏡に導入されると同時に、私たちはどのような観測をすればよいか、計画を立て始めました。そして2001年に、すばる望遠鏡での試験観測を行い、2002年に大規模な観測を行いました。すばる望遠鏡の他のプロジェクトとも協力できるような領域を集中的に観測して、データを共有するようにしました。それ以降、私たちはずっと一緒に共同観測を進め、すばる望遠鏡による超新星の追跡観測が、過去 10 年間にわたっていつも私たちと一緒に行われてきました。


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写真: 議論するパールムッター博士の研究チームのメンバー。囲み写真は、日本からも複数の研究者が参加した共同研究会議での記念写真。(提供: ローレンスバークレー国立研究所)


――今日、すばる望遠鏡は超新星観測にどのように貢献しているのでしょうか?
  数ある世界中の大型望遠鏡の中で、遠方の超新星を分光観測することができる望遠鏡は限られています。カリフォルニア大学連合のケック望遠鏡、米国などのジェミニ望遠鏡、ヨーロッパの VLT、そしてすばる望遠鏡だけです。すばる望遠鏡による分光スペクトルを東京大学の諸隈智貴さんと一緒に最近、論文発表しましたが、これは遠方超新星のスペクトルのカタログとしてとても重要な貢献だと思います。

――今後、すばる望遠鏡へ期待することは?
  より広い視野を持つ Hyper Suprime-Cam がすばるに新しく導入されますね。Hyper Suprime-Cam が、遠くの宇宙を探る上で重要な赤外線に近い波長域で感度が高く設計されたことは、とても重要なことです。広い視野と近赤外感度の組み合わせが、宇宙で最も遠い超新星の観測を可能にし、これまでの望遠鏡では観測できないような領域を探り始めることができるようになるでしょう。より多くの、そしてより遠くの超新星を次々と発見し、新世代の超新星研究の礎を築くデータを生み出すことができるのではないかと期待しています。


聞き手: 鈴木尚孝さん (ローレンスバークレー国立研究所)




参考資料:パールムッター博士のノーベル賞受賞に直接関係し、すばる望遠鏡のデータが引用されている主な論文

  • Suzuki et al., 2011, The Hubble Space Telescope Cluster Supernova Survey: V. Improving the Dark Energy Constraints Above z>1 and Building an Early-Type-Hosted Supernova Sample
  • Amanullah et al., 2010, Spectra and Hubble Space Telescope Light Curves of Six Type Ia Supernovae at 0.511 < z < 1.12 and the Union2 Compilation
  • Morokuma et al., 2010, Subaru FOCAS Spectroscopic Observations of High-Redshift Supernovae
  • Morokuma et al., 2008, The Subaru/XMM-Newton Deep Survey (SXDS). V. Optically Faint Variable Object Survey

参考となる一般書:

  • リチャード・パネク(著)・谷口義明(翻訳) (2011) 『4%の宇宙 宇宙の96%を支配する"見えない物質"と"見えないエネルギー"の正体に迫る』 ソフトバンククリエイティブ… ダークエネルギー発見の歴史が研究者達へのインタビューからまとめられている書籍
  • 土居守・松原隆彦 (2011) 『宇宙のダークエネルギー 「未知なる力」の謎を解く』 光文社新書 … 現在の研究が理論と観測からまとめられている書籍

関連リンク:



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