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究極の「視力」達成へ向けて、補償光学系が再始動

2010年12月27日

 2010年11月、すばる望遠鏡に搭載された補償光学系 (Adaptive Optics; AO) の共同利用観測が再開しました。この補償光学系は 188 素子の波面補正要素 (注1) を持ち、世界トップクラスの性能を誇っています。2006年に完成し、太陽系外惑星の直接検出などすでに大きな科学成果に貢献してきました。さらなる発展に向けてレーザーガイド星 (レーザー光で作られた人工星) を利用した運用モード (注2) の本格的な立ち上げに入っていましたが、2010年の始め、主要要素である可変形鏡の不具合に見舞われ、補償光学系の共同利用観測を一時中断していました。

 すばる望遠鏡があるハワイ・マウナケア山頂は大気の流れが安定し、世界の中でも最もシャープでボケの小さい星像が得られる場所の一つです。それでもなお、望遠鏡が地上に設置されている限り大気の揺らぎが観測データに影響を与えてしまいます。すばる望遠鏡の開設初期から、大気の揺らぎを計測して即時にその影響を補正するという機能を持つ補償光学系を搭載し、望遠鏡の性能を限界まで引き出したシャープな星像が取得できるよう工夫してきました。

 不具合発生後ただちに新しい可変形鏡の作成を開始するとともに、補償光学系の共同利用観測が中断している間 に調整方法の工夫・さまざまな改良など進め、新しい可変形鏡を使った10月下旬の試験観測で見事に性能が復帰していることを確認しました。今後、生まれ変わった補償光学系で次々と成果が出ることを期待しています。

 現在、補償光学系開発チームはプロジェクトの中核となるレーザーガイド星モードの最終調整を急ピッチで進めています。近い将来、レーザーガイド星を使った補償光学系で望遠鏡の性能限界に迫るシャープな星像が得られることを目指しています。

 

(注1) 波面補正要素が多いほど、大気揺らぎの影響による星像のボケ具合を細かく補正できます。すばる望遠鏡では2000年より第一世代の 36 素子補償光学系が搭載され、さらに2006年からは第二世代の 188 素子補償光学系が運用されています。

(注2) 大気の揺らぎを計測するために補償光学系は明るい星を使います。これまで、明るい星が近くにないところでは補償光学系を使うことができませんでした。レーザーガイド星はどこにでも作ることができますので、補償光学系を使ってシャープな像が得られる天体の数が格段に増えます。

 

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図1:観測を再開した 188 素子補償光学系と近赤外分光撮像装置 IRCS による球状星団 M15 中心部の近赤外線画像 (右; 視野は1分角×1分角)。0.1 秒角の解像度が達成されています。左は国立天文台 50 cm 社会教育用公開望遠鏡で撮影された M15 全体の可視光画像。



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