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新型の超広視野カメラが開眼、ファーストライト画像を初公開

2013年7月30日

  すばる望遠鏡に搭載され、本格的な観測を始めた超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム, HSC) が、アンドロメダ銀河 M31 の姿を鮮明に捉えました。アンドロメダ銀河は一般にも有名な天体で、日本やハワイから見える銀河としては見かけの大きさが最大のものです。それゆえ、従来の地上大望遠鏡ではその姿を一度に捉えることができませんでした。今回すばる望遠鏡に新たに搭載された HSC は、満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる世界最高性能の超広視野カメラです。独自に開発した 116 個の CCD 素子を配置し、計8億7000万画素を持つまさに巨大なデジタルカメラです。HSC の持つ広い視野により、すばる望遠鏡はアンドロメダ銀河のほぼ全体を1視野で捉えることに成功しました。すばる望遠鏡に当初から搭載されている Suprime-Cam (シュプリーム・カム) では、アンドロメダ銀河の一部 (満月よりやや広い視野) をシャープに撮影できていましたが、HSC の登場により観測の効率がさらに大きく高まります。


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図1: すばる望遠鏡に搭載された HSC がとらえたアンドロメダ銀河 M31 の姿。g r, i バンドの画像が青、緑、赤色に対応し、それぞれ 10 分積分 (露出) です。画像をクリックすると拡大画像 (3.9MB) が表示されます。(クレジット:HSC Project / 国立天文台)


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図2: すばる望遠鏡に当初から搭載されている Suprime-Cam (左下、中央) と、今回 HSC (右) が写し出したアンドロメダ銀河 M31 の視野の比較。黄色い枠は過去に Suprime-Cam で撮影された領域を示します。左上には月の典型的な見かけの大きさが示されています。(クレジット:国立天文台)


  HSC は国立天文台が中心となり、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 (カブリ IPMU) など国内外の研究機関とともに 10 年以上の歳月をかけて開発されました。2012年8月に初めてすばる望遠鏡に搭載され、その後性能試験観測が進められてきました。アンドロメダ銀河はこの試験観測の一環として観測されました。HSC が撮影した画像では、アンドロメダ銀河のほぼ全体が1視野で捉えられていると同時に、画像を拡大すると銀河内にある星の一つ一つも分離して写し出されていることが分かります。この広い視野とシャープな星像こそが、すばる望遠鏡と HSC の組み合わせで実現される最大の特長です。昨年から続いている一連の性能試験観測により、HSC の視野全体で設計通りの星像を達成していることを確認しました。


動画: すばる望遠鏡に搭載された HSC が撮影したアンドロメダ銀河画像の紹介動画。この動画では、アンドロメダ銀河のほぼ全体が1視野で捉えられていると同時に、画像を拡大すると銀河内にある星の一つ一つも分離して写し出されていることが分かります。この他にも、動画「新型の超広視野カメラ Hyper Suprime-Cam、始動へ」HSC 用 CCD を 116 枚インストールする様子を収めた動画などにもご注目ください。(クレジット:HSC Project / 国立天文台)


  HSC には、複数の日本企業が開発した最新の技術が使われており、まさに日本の技術力の結晶と言えます。幅広い波長域にわたり非常に高い感度を有し、遠方天体観測に特段の威力を発揮する CCD 素子は、浜松ホトニクス株式会社が国立天文台とともに新規に開発したものです。光学収差や大気分散を補正し、高い結像性能を達成するのに不可欠であった補正光学系は、キヤノン株式会社によって開発されました。重さ数トンの HSC 全体を1-2マイクロメートルの位置精度で制御しながら望遠鏡上で安定した観測姿勢を保持するための機械部品である主焦点ユニットは、三菱電機株式会社が担当しました。どれ一つ欠けても HSC の開発は成し得ませんでした。また、データ収集用電子回路は高エネルギー加速器研究機構によって開発されました。さらに米国・プリンストン大学が画像データ解析用ソフトウェアの開発を、台湾・中央研究院がフィルター交換装置の開発を担当するなど、国際的なプロジェクトとしても進んでいます。

  今後、すばる望遠鏡と HSC の組み合わせで達成されるシャープな星像と広視野を活かし、国立天文台と東京大学カブリ IPMU が中心となって、国内外の研究機関とともに重力レンズ効果を用いたダークマター分布の直接探査などの観測を進める予定です。


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図3: すばる望遠鏡に搭載され、性能試験観測が行われている HSC。上空にはプレアデス星団 (和名「すばる」) が見えています。(クレジット:国立天文台、撮影:藤原英明)


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図4: HSC が搭載されるすばる望遠鏡主焦点 (左) と主要な部分の組み上げが完了した HSC の全体像 (右)。(クレジット:国立天文台)


  10 年がかりで HSC の開発を進めてきた宮崎聡さん (国立天文台准教授/HSC 開発責任者) は、次のようにコメントしています。
「2001年4月に、私たちのグループは、先代のカメラ Suprime-Cam を完成させました。このカメラは当時としては、世界最高の探査能力を持つカメラでした。早速、『重力レンズ効果』を用いて、ダークマター分布の調査を開始しました。Suprime-Cam は想定通りすばらしい性能を発揮し、次々にダークマターの集まりを直接検出することができました。一方、ちょうどその頃、宇宙の加速膨張が観測され、その原因となるダークエネルギーが大問題となっていました。私たちが観測していた『ダークマター分布の時間変化』は、ダークエネルギーの研究に使えます。そこでダークエネルギーの謎に迫る観測計画を検討してみたところ、Suprime-Cam では 50 年以上もかかってしまうことがが分かりました。
  『およそ 10 倍の効率 (視野) を持つカメラを作るしかない。』
  これが HSC 構想の始まりでした。そして、国立天文台に蓄積されてきたモザイク CCD カメラ技術と日本国内メーカーのセンサー・光学・精密機械技術を結集し、HSC の『開眼』を迎えることができました。他国にはまだない『超広視野高解像度カメラ』で、まさに『世界最強の巨大デジタルカメラ』と言っても良いでしょう。これを用いて 2014年より5年間にわたる観測が計画されています。カブリ IPMU をはじめ国内外の研究者の方々と協力して、ダークエネルギーの謎に迫りたいと考えています。」

  HSC の CCD 素子の開発を担当した浜松ホトニクス株式会社の村松雅治さん (固体事業部 固体第4製造部 部長代理) は次のようにコメントしています。
「すばる用 CCD は、膨張する遠くの宇宙を観測したいという要請で、厚い N 型シリコンを使用して、完全空乏型、裏面入射型の CCD を開発し、近赤外 1000nm で感度を初代 Suprime-Cam の2倍にしました。当社では、厚いシリコンによる解像度の劣化などの問題を、結晶欠陥が無い超高抵抗 N 型シリコンの選定から、バックバイアス技術の適用などにより、高解像度、低暗電流を実現し高画質を達成しました。HSC では、Suprime-Cam の 10 倍以上となる 116 個の CCD を並べるため、各 CCD の各画素と高さのバラツキを 40µm 以下に抑える組立技術を開発しました。この CCD の技術は、軟X線ダイレクト検出器やラマン分光分析などに発展し、今後も近赤外、軟X線、電子線などの応用が期待されています。」
浜松ホトニクス株式会社プレスリリース (2013年7月31日)

  補正光学系の開発を担当したキヤノン株式会社の海老沼隆一さん (執行役員、総合 R&D 本部 副本部長) は次のようにコメントしています。
「HSC 補正光学系の開発・製造という素晴らしい仕事に取り組む機会を与えて頂いたことに深く感謝いたします。技術的難度の高いレンズユニットでしたが無事完成し、弊社の技術が最先端の科学に貢献できることをあらためて光栄に思っています。HSC を利用する多くの研究者が、宇宙の起源解明につながる大発見を成し遂げてくれることを楽しみにしております。
  開発をお任せ頂いたことで、当社の光学・精密技術はまた一段と進化いたしました。キヤノンはこれらの高度な技術を、天文学用途等の科学技術機器の開発に活用するだけでなく、デジタルカメラや半導体露光装置を始めとするさまざまな製品にも応用展開し、世界中の方々にお届けしたいと考えております。」
キヤノン株式会社ニュースリリース (2013年7月31日)キヤノンビデオスクエア

  主焦点ユニットの開発を担当した三菱電機株式会社の遠藤真さん (通信機製作所 インフラ情報システム部 観測システム課 HSC プロジェクトリーダー) は次のようにコメントしています。
「このお話を頂いたのは 2006年頃だったと思います。前回開発した主焦点ユニットを担当していたこともあって呼ばれたのですが、視野直径が前回比3倍、レンズ直径は 1.6 倍、長さ2倍、重量5倍、とても成り立たないのでは、というところからのスタートでした。しかし、すばる本来の性能は維持しなくてはいけません。大変なご要求でしたが、ジャッキの外筒をチタンにする等、工場のメンバ皆で様々なアイデアを出し、ひとつひとつ丁寧に解析・試験・検証して現在の姿に近づけていきました。この仕事を仲間達と実現できたことは最高の喜びですし、弊社が天文学の発展に貢献できれば大変光栄です。すばらしい発見を心から願っております。」
三菱電機株式会社ニュースリリース (2013年7月31日)

  HSC サイエンスワーキンググループ長の高田昌広さん (東京大学カブリ IPMU 教授) は次のようにコメントしています。
「HSC の本格始動は、本当にエキサイティングな進展です。待ちに待った世界最大の宇宙観測探査を始めることができるのです。宇宙の膨張の歴史と運命を調べるには、空の広い領域、かつ遠い宇宙にある暗い銀河までくまなく観測する、言わば『宇宙の国勢調査』を行う必要があります。数億個の銀河の形状を詳しく調べ、重力レンズ効果を測定することで、ダークマターの分布を復元し、ダークエネルギーの性質に迫ることを目指しています。さらに、HSC データは生まれたばかりの遠方銀河の探査も可能にします。このエキサイティングな HSC 宇宙探査データから最大限のサイエンスを引き出すために、日本、台湾、プリンストン大学の研究者らと準備研究を進めています。」
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構ニュース (2013年7月31日)


  HSC の開発は、国立天文台が東京大学 (カブリ IPMU、理学系研究科)、高エネルギー加速器研究機構、台湾・中央研究院天文及天文物理研究所、米国・プリンストン大学と共同で行ったものです。また、科学研究費補助金・基盤研究 (B) (課題番号: 15340065、研究代表者:宮崎聡)、特定領域研究 (課題番号: 18072003、研究代表者:唐牛宏)、および最先端研究開発支援プログラム (宇宙の起源と未来を解き明かす―超広視野イメージングと分光によるダークマター・ダークエネルギーの正体の究明―、中心研究者:村山斉) によるサポートを受けています。


(注) アンドロメダ銀河 M31:
私たちの住む天の川銀河 (銀河系) にもっとも近い渦巻き銀河 (距離およそ 230 万光年)。天の川銀河、さんかく座銀河 M33 などともに局部銀河群を構成する。実視等級 4.4 等で肉眼でも見える銀河としても有名。


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