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ハワイ観測所にサマーステューデントがやってきた!

2010年10月19日

  2010年度、日本学術振興会、組織的な大学院教育改革推進プログラム「研究力と適正を磨くコース別教育プログラム」(2009年~2011年) の一環として、国立天文台・総研大物理科学研究科サマーステューデントプログラムの取り組みが始まりました。これは天文学研究に強い意欲を持つ大学生を対象とし、夏休みの期間、国立天文台の各キャンパスに滞在し、国立天文台スタッフの指導もとに研究を行うという取り組みです。天文学研究に強い意欲のある学生に研究の機会を与えることにより、将来、天文学研究を志向する人材を育成することを目的とします。
 ハワイ観測所では「すばる望遠鏡における観測天文学の Hands-on プログラム」という研究プログラムが行われ、新潟大学の石見涼さんが参加されました。
 ハワイ観測所に滞在中の石見さんにお話を伺いました。


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「すばる望遠鏡における観測天文学の Hands-on プログラム」
サマーステューデント

新潟大学 石見涼さん


――ハワイ観測所に来て、どんな勉強・研究をしていますか?
 天文学に関する画像解析ソフト (IRAF, DS9) や Linux の使い方を学んだ上で、観測所スタッフの臼田さん、早野さん、大屋さんのご指導のもと、Adaptive Optics (AO:補償光学装置) や Deformable Mirror (DM:可変形鏡) の実験データの解析を行っています。具体的には、IRCS (近赤外線分光撮像装置) のデータが、AO の on/off によってどのように変化するかを調べています。研究の過程では、C言語とシェルプログラミングを改めて学びました。これまで学校で学んできたC言語は、宿題レベルでしかないのだと実感しました。

  さっそく今回身につけたプログラミングのスキルを使って、DM の変形測定の電圧をプラス側とマイナス側にかけたときの差を記録した、512×512×3のデータを解析するためのプログラムを作ったりもしました。データを扱うための表計算フォームはデータ範囲が限られ、およそ60,000データ以上になるとあふれてしまいます。そのため、大量のデータの解析をするには向いていません。そこで GNUPLOT (グラフ作成ソフト) を用いて、
・大量のデータから異常値を摘出する (大きな値を持つデータの縦横5点と値を比較し、周りのデータとの整合性が取れているかを確認し、おかしければ排除する)
・取り除かれたデータから最大値を求める
・その最大値の70%から重心を求める
・各点から重心を差し引いて半径を求める
・そしてある半径以上はいらないので捨てる
ということを行いながら、データの解析を進めてきました。


――なぜこのプログラムに応募されましたか?
 実は最初に KEK (高エネルギー研究所) のサマープログラムに応募したのですが、それに落ちてしまったんです。それで、夏休みが暇になってしまうな・・・と思っていた矢先に国立天文台のポスターを見つけて、“おぉ、すばるに行けるのか!”と思って応募させて頂きました。


――定員1名の枠に見事選ばれた石見さんですが、実は第一希望は国立天文台の本部 (東京都三鷹市) だったそうです。
 第一希望を三鷹の国立天文台、第二希望をハワイ観測所にしていました。大勢応募しているだろうし、まさかハワイは受からないだろう・・・と思っていたところ、行き先が書いてあるメールに“ハワイ”とあって驚きました。


――現在の大学での専攻は?
 新潟大学の理学部物理学科です。なんだか気恥ずかしいですが、素粒子理論グループに属しています。大学で研究が分かれるときに、素粒子と宇宙論と物性で迷ったのですが、もともと天文学に興味があり、素粒子なら天文との関連もあるので、それで素粒子を選びました。


――ハワイ観測所、ヒロの町の印象は?
 ハワイ観測所は皆さんフレンドリーですね。休みの日はスポーツに誘って頂いたりしました。そして天文学の最前線というすばらしい環境にいることを実感しています。ヒロの町は故郷、新潟同様に雨が多いですが、新潟と違って一日降り続くのではなく、すぐに止んでくれるのでいいですね。


――今回の経験を今後どのように活かしていきたいですか?
 今後大学に戻って、素粒子的な道に進むのか、素粒子論的宇宙論または宇宙論に進むのかを天秤にかけて、大学院進学の参考にしようと考えています。


――「研究所」「研究所の現場」についてここに来る前と来てからではどのように考え方、イメージが変わりましたか?
 元々大学にいて、「研究所」がどのようなものかというのは知っていたので雰囲気は大体知っていましたが、「海外の研究所」は知らなかったので、当初のイメージは、「日本人が少ない」「英語で話す」「日が暮れたらみんな帰る」と思っていました。3つ目の日が暮れたらみんな帰ってしまうというのはヨーロッパの研究所ではよくあると聞いていました。実際、すばる望遠鏡は、「日本人が多い」「日本語があちらこちらで聞ける」「日が暮れても帰らないし、夜遅くまで人がいる」といった点で日本の「研究所」とさほど変わりないなと思いました。そもそも観測が夜に行われるので、夕方に出勤してくる職員もいるそうです。しかしここはチームで協力して物を動かす現場なので、1人1人がわりと違うことをしている日本の普通の研究所とは全く違うと思いました。仕事になったときの空気の張り詰め方が日本のそれとは全く異なる物だと感じました。


坂道だらけのヒロの町を、自転車で軽快に動き回っていた石見さん。帰国してすぐ9月15日には国立天文台の本部での成果発表会に臨んでいました。

 



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