トピックス

ハワイ観測所スタッフによる本の読書感想文が内閣総理大臣賞を受賞

2009年2月13日

なぜ、めい王星は惑星じゃないの?

 去る2008年夏の第54回青少年全国読書作文コンクールの課題図書 (小学校高学年の部) に、ハワイ観測所の布施哲治さんによる『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』(くもん出版) が選定されたことは、「国立天文台アストロ・トピックス (391)」にてお知らせしました。年が明け2009年1月に行われた全国審査の結果、同書で読書感想文を書いた小学6年生が、最優秀賞の内閣総理大臣賞 (小学校高学年の部) を受賞しました。

 同コンクールは、今回で54年目を迎える長い歴史を持ちます。これまでにも宇宙・天文学に関する3冊の本が課題図書に選ばれていますが、いずれも20年ないし40年以上も前のことで、その内容は宇宙にまつわる物語でした。2006年に初めて惑星の定義が制定されたことを受けて出版された『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』は、研究者による宇宙の最前線を伝える本としては初めての課題図書です。

 夏休み後に集められた感想文は、学校や地域での予備審査の後、各都道府県での選抜が行われます。2009年1月に実施された全国審査により、742編の都道府県の代表作から、『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』の感想文を書いた千葉県の小学6年生・田中堯くんが最優秀賞の内閣総理大臣賞をみごと受賞しました。さらに、静岡県の橋本優子さんは優秀作品として毎日新聞社賞、東京都の辻美紀江さんは優良作品として全国学校図書館協議会長賞、宮城県の佐々木夏海くんは奨励作品としてサントリー奨励賞をそれぞれ受賞しています。


左より布施さん、田中堯くん、お母さんの田中千織さん (写真提供:くもん出版)
左より布施さん、田中堯くん、お母さんの田中千織さん
(写真提供:くもん出版)

 

『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』による受賞者

 受賞名  氏名  感想文のタイトル
 内閣総理大臣賞  田中堯くん  「なぜ、めい王星は惑星じゃないの?」を読んで
 毎日新聞社賞  橋本優子さん  宇宙の宝箱は、不思議でいっぱい
 全国学校図書館協議会長賞  辻美紀江さん  『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』を読んで
 サントリー奨励賞  佐々木夏海くん  ぼくの使命

 2009年2月に東京で行われた表彰式には、田中くん、橋本さん、辻さんが出席しました。小学校低学年、同中学年、同高学年、中学校、高校の各部で内閣総理大臣賞を受賞者した5名の中から、応募総数441万8141編の代表として田中くんが感想文を朗読、布施さんは課題図書の著者代表として次のようなメッセージを述べました。

 

── 宇宙の研究を志すきっかけとなった図鑑は、三十数年経ったいまも研究室の書棚に並んでいます。現在はコンピュータやインターネットの時代ですが、それらに比べて『一冊の本の寿命』は実に長く、さらに『人生を変える力』をも備えていることを覚えておいてください ──


■関連リンク
 国立天文台 アストロ・トピックス (391)
 『この夏休み、宇宙の本の読書感想文を書いてみませんか』
  http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000391.html

 第54回青少年読書感想文全国コンクール・ホームページ
  http://www.dokusyokansoubun.jp/

 著者による『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』公式ホームページ
  http://www.naoj.org/staff/tetsu/Pluto/index.html




[全文引用] 2008年6月23日 国立天文台アストロ・トピックス (391)


この夏休み、宇宙の本の読書感想文を書いてみませんか

 そう、あれは2006年夏──。冥王星が惑星から準惑星という新グループに入ってから、早いもので2年が経とうとしています。実は、冥王星の話題はまだまだ尽きません。つい最近も、冥王星やエリスのような太陽系の外縁に存在する準惑星の和名「冥王星型天体」に、「plutoid」という英語名がついたという発表があったほどです (国立天文台 アストロ・トピックス (387) 参照)。

 どうして冥王星は惑星から準惑星になったのでしょうか。

 惑星の定義が発表された2006年夏の新聞紙面に、「さようなら冥王星」や「冥王星降格」といった見出しが見られました。まるで、冥王星がある日、突然どこかへ行ってしまったり、変形したりして、惑星ではなくなったような印象を受けた方もきっと多いことでしょう。

 実際には、そのようなことはありません。冥王星は、1930年に発見されてからこれまで、太陽の周りの同じ軌道上をいつも回り続けています。現在では、太陽系が誕生してから今日までの何十億年ものあいだ、冥王星の軌道は安定に保たれてきたことがコンピュータ・シミュレーションによって示されているほどです。

 先の報道には、大きな誤解があります。冥王星や太陽系に何かあったわけではありません。実は、私たちの太陽系に関する理解が深まったことで、冥王星が惑星から準惑星という新しいグループに入ることになったのです。つまり、変わったのは私たちの知識といえます。

 では、どうして太陽系に関する認識が深まったのでしょうか。

 それは科学の進歩があったからです。大型望遠鏡の建設、高速なコンピュータの出現、新しい研究手法の発明……人間の知的欲求から、太陽系や宇宙を理解する手段が発達し、その結果として私たちの知識が格段に高まったのです。

 今夏の第54回青少年読書感想文全国コンクールの小学校高学年向け課題図書に、国立天文台ハワイ観測所の研究員・布施哲治 (ふせてつはる) さんの著書『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』 (くもん出版) が選ばれました。過去53年間の宇宙・天文に関する3冊の課題図書は、いずれも物語のため、研究者が宇宙を解き明かす科学書は今回が初めてです。

 どうして冥王星が惑星ではなくなったのか、それは大人だけが持つ疑問ではありません。この本では、小学生にもわかるように、その理由が書かれています。第二章以降は、古代の人びとが思い描いていた宇宙像から、科学の進歩により太陽系の概念が時代とともに広がっていった様子、さらには太陽系研究の最前線まで、興味深いテーマが続く点に注目したいところです。

 この夏休み、この本を通して宇宙の神秘に触れながら、子供たちに読書感想文を勧めてみてはいかがでしょうか。

 著者の布施さんは「これからの科学の進歩を支えるのは自分たちなんだ、と子供たちに気づいて欲しいですね」。今回の課題図書をきっかけにして、「一人でも多くの子供たちが宇宙に目を向け、読者の中から将来の天文学者が誕生したらうれしいですね」と語っていました。


○過去54年間における宇宙・天文関連の課題図書

  • 1963年:第9回『地球は青かった』 (あかね書房) ガガーリン著
  • 1964年:第10回『宇宙旅行の話』 (偕成社) 村山定男著
  • 1985年:第31回『星になったチロ』 (ポプラ) 藤井旭著
  • 2008年:第54回『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』 (くもん出版) 布施哲治著
 (図書館利用者支援データベース・課題図書データベースより)

 ※この情報は、国立天文台ハワイ観測所の布施哲治さんよりご提供いただきました。


参照:
 第54回青少年読書感想文全国コンクール・ホームページ
  http://www.dokusyokansoubun.jp/

 著者による『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』公式ホームページ
 (夏休み中の講演会情報も掲載)
  http://www.naoj.org/staff/tetsu/Pluto/index.html

 国立天文台 アストロ・トピックス (387)
  国際天文学連合、冥王星型天体の英語名を決定
  http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000387.html

2008年6月23日 国立天文台・広報室



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