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IRCS がファーストライト!

2000年6月16日

 5月には、主鏡を固定する支持点の改修作業が修了し、試験観測が再開されました (5月12日の観測成果参照) 。さらに日本や世界各国の天文学者がすばる望遠鏡を用いて研究を行う、第一期共同利用観測のアナウンス (Call for Proposal) がありました。

 今年の暮れから始まる共同利用観測では、Suprime-CamIRCS の2つの観測装置が利用できることになります。そのうちの IRCS (近赤外線分光撮像装置、Infrared Camera and Spectrograph) について、今月は特集をします。IRCS はその名前の通り、波長が1~5ミクロンの近赤外線における画像とスペクトルを得ることができる装置です。この波長の範囲は OHS よりも長く、また CIAO よりも広い範囲を撮像することができます。さらにこの2つの装置よりも高い分解能のスペクトルを得ることも可能です。すばる望遠鏡の観測装置の中で、IRCS は利用希望が多い観測装置の一つになるでしょう。

ヒロの山麓施設にあるシミュレーターに搭載されたIRCS

 すばる望遠鏡のカセグレン焦点に設置した IRCS は、2月25日の夜にファーストライトを迎え、その後6日間にわたり試験観測が行われました。現在は、得られたデータを用いて、機器の調整が行われています。

カセグレン焦点に搭載された IRCS とサポートサイエンティストの寺田宏氏

 今回の試験観測では、装置の性能を見るだけでなく、ガンマ線バースト GRB 000301C の観測など科学的に優れた成果も得られました。

 星が形成されている領域や銀河中心のような天体は、チリに覆われていることが多く、内部まで見通すことは難しくなっています。一方で波長が 2.5 ミクロンよりも長い光は、チリに吸収されにくいことが知られています。IRCS は、このような熱赤外と呼ばれる光を効率よく観測できるように設計されています。実際は望遠鏡のような常温の物体からも、同じように熱赤外が出ています。

IRCS によるオリオンKL領域の画像。J, K, L' バンドの3つの画像を合成。赤い色をした天体はチリに覆われており、内部は長い波長でのみ見通すことができます。

 IRCS のスペクトル観測では、赤外線を構成しているそれぞれの "色" に分解します。スペクトル観測の重要な役割の一つは、天体の速度を測ることです。 CIAO と OHS は、光を分ける分光装置として "グリズム分光器" という機器を用いています。グリズム分光器は、秒速数百km よりも小さい速度差を検出することはできません。IRCS にはグリズム分光器のほかに "エッシェル分光器" も備えています。エッシェル分光器は秒速15km 程度の小さい速度差まで検出でき、グリズム分光器よりも天体のスペクトルを詳しく観測することが可能です。若い星や銀河内のガスの運動を研究するために最適な装置といえるでしょう。[参考までに、地球の赤道上にある物体は、地球の自転により秒速0.46kmで運動しています。さらに地球は、公転運動により太陽の周りを秒速30kmで動いています。]

IRCS のエッシェル分光器によって得られたオリオン星雲のスペクトル。輝線は、若い星によって温められた周りのガスから出ています。いくつかの輝線は、複数の速度情報に分解されています。

 共同利用観測に向けて、IRCS による試験観測はこれからも続けられる予定です。今後は、山麓施設に先月到着した波面補償光学装置 AO と共に用いることになります。IRCS の開発グループでは、褐色矮星 (自ら光ることのできない木星質量の 10 ~ 100 倍の天体) を探すことや、星の周りの化学反応を調べたり、また遠く離れた銀河の運動を測定する計画をしています。

すばる望遠鏡の制御室内の IRCS 開発グループのメンバー。後列左から、 Mark Weber、寺田宏、 Alan Tokunaga、Bob Potter、後藤美和、前列に小林尚人の諸氏

 

 

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