観測成果

銀河系内

原始惑星系円盤における多重リングギャップ構造の発見

2015年6月16日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

国立天文台を中心とする SEEDS プロジェクト (注1) 国際共同研究チームは、すばる望遠鏡を使った観測により、「うみへび座 TW 星」という若い星の周りにある原始惑星系円盤を、これまでで最も詳細に写し出すことに成功しました。観測の結果、この星の原始惑星系円盤において、半径約 20 天文単位 (太陽から天王星までの距離に相当、注2) の位置に、リング状のギャップ構造を発見しました (図1右)。ハッブル宇宙望遠鏡が過去に、半径 80 天文単位の位置にリングギャップ構造を報告していますが、今回の発見によって、はるか内側にも同様の構造が存在していることが明らかになりました。惑星に関する別の兆候も考慮すると、この天体では我々の太陽系のように複数の惑星が誕生しつつあり、太陽系の誕生の姿を映し出しているものと考えられます。

原始惑星系円盤における多重リングギャップ構造の発見 図

図1: うみへび座 TW 星の周りに存在する塵の円盤。左は2013年にハッブル宇宙望遠鏡で観測した画像。中心から 80 天文単位の位置にリング状に暗くなっているギャップ構造が発見されていました。右の図は今回すばる望遠鏡で観測した画像。破線は中心から 80 天文単位の距離を表しています。すばる望遠鏡を用いた今回の観測により、約 20 天文単位の位置でリング状に淡く暗くなっているギャップ構造が発見されました。中央の黒い円は明るい中心星を隠すマスクで、そのサイズは半径で約11天文単位です。(クレジット:国立天文台)

中心星近傍領域の撮像への挑戦

惑星は、水素とヘリウムを主成分とするガスと塵でできた円盤状の構造「原始惑星系円盤」で形成されると考えられています。太陽系の中で太陽から最遠の惑星は海王星であり、その距離は約 30 天文単位です。これまでの原始惑星系円盤の観測では、海王星よりも遠方に相当する領域が主に観測されてきました。しかしながら我々の太陽系を含め惑星系の成り立ちを理解するためには、中心星のすぐ近くの観測が必要不可欠です。

近年、地球大気の揺らぎによる画像の乱れを補正する補償光学装置と最新鋭の高コントラストカメラ (HiCIAO) が搭載されたすばる望遠鏡によって、中心星のごく近くまで精緻な観測が可能となりました。今回、優れた性能を持つすばる望遠鏡の観測装置を用いるとともに、観測方法やデータを厳選することで、ハッブル宇宙望遠鏡の観測よりもさらに中心星に近い領域が観測可能になったのです。これは惑星系の成り立ちを解明する上で大変重要なことです。

うみへび座TW星の多重リング状のギャップ構造
うみへび座TW星は太陽の約半分の質量を持ち、約 180 光年の距離に位置する、年齢が 1000 万年程度の若い星です。これほど若い星としては太陽に最も近く、その姿を詳細に調べるのに好都合な天体です。そのためこれまでに様々な観測が行われてきました。2013年のハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線の観測では、リング状のギャップ構造が中心星から約 80 天文単位の距離のところに発見されました (図1左)。さらに可視光から中間赤外線の観測で得られたスペクトル・エネルギー分布 (注3) からは、円盤の中心部に大きさが4天文単位の小さな円盤が存在することも示唆されています。後者は、現在の技術では直接写し出すことができないほど小さい構造です。

今回、約 30 の大学や研究機関からなる国際共同研究チームは、うみへび座TW星の周りにある原始惑星系円盤の細かい塵を、すばる望遠鏡 HiCIAO を使って近赤外線 (波長 1.6 マイクロメートル) で観測しました。その結果、半径約 20 天文単位の位置で新たにリング状のギャップ構造を発見しました (図1右)。今回発見されたリング状のギャップ構造は、星の中心から見て、太陽と天王星までの距離に相当する場所に位置しています。ハッブル宇宙望遠鏡で発見された 80 天文単位のリング状のギャップ構造と合わせて考えると、同じ円盤に2つのリング状のギャップ構造が撮影されたことになります。

「今回の観測で2つのリング状のギャップ構造が直接確認された結果、うみへび座 TW 星の円盤では、中心星からいくつかの異なる距離に同時に複数の惑星が形成されていると考えられます。また、惑星とはいえないまでも、やがて惑星の基になる塵が大きく成長している段階だとも考えられます。」論文の筆頭著者である国立天文台の秋山永治さんは、そう指摘します。

原始惑星系円盤における多重リングギャップ構造の発見 図2

図2: うみへび座TW星の周りに存在する塵の円盤の想像図。(クレジット:国立天文台)

惑星系の誕生の謎に迫る 〜太陽系の過去の姿〜

1995年に初めて恒星のまわりに系外惑星が発見されて以来、有力な候補も入れると 5000 を超える系外惑星が報告されています (2015年4月現在)。その中には、主星のまわりに複数の惑星が存在し太陽系のような惑星系を構成している天体も存在します。うみへび座TW星の観測で発見された複数のリング状のギャップ構造は、この星の若い年齢を考慮すると惑星系を形成する途中の段階だと推測され、我々の太陽系も昔は似たような姿をしていたと推測されます。また、原始惑星によってリング状のギャップ構造が形成される理論予想もあります。今回の観測成果は、惑星系の誕生の謎に迫る上で重要なものとなりました。

今後の展望
すばる望遠鏡の観測では、原始惑星系円盤の表面に存在する小さな塵の分布を明らかにしました。さらに、今回の観測結果からギャップ内で塵が大きく成長している可能性も考えられます。惑星の誕生の謎に迫るには、円盤内部を観測し、惑星の成長を調べるカギとなる大きな塵の分布を明らかにすることが重要です。たとえば電波で観測を行うアルマ望遠鏡では、うみへび座TW星よりも若い別の星(おうし座HL星)を取り囲む多重リング構造の撮像に成功し、円盤内部にある大きな塵の分布を明らかにしています (注4)。また電波では、木星のようなガス惑星や地球の大気の材料となるガスも観測できます。「電波観測とすばる望遠鏡のデータを組み合わせて円盤の3次元構造を明らかにし、惑星の形成メカニズムの解明を目指します」と研究チームは意気込んでいます。

この結果は、SEEDS プロジェクトの共同研究者である秋山永治氏ほか 56 名の共著者らによって、米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』の2015年4月1日号 (802 号) に出版されました。なお本研究は、科学研究費補助金の特別推進研究 (22000005) による助成を受けています。

(注1) SEEDS (Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru Telescope; すばる望遠鏡による戦略的惑星・円盤探査) プロジェクトは、すばる望遠鏡を用いた惑星探査の大規模観測プロジェクトです。SEEDS プロジェクトは、国立天文台/東京大学の田村元秀教授を中心として、2009年から約5年にわたり星の周囲の構造や系外惑星に関する数多くの発見をしてきました。代表的なものとして、ぎょしゃ座 AB 星や SAO 206462 星で見られる渦巻き腕構造、リックカルシウム 15星や PDS 70星で見られる大きな穴構造などがあります。

(注2) 天文単位 (AU) は約1億 5000 万キロメートルで、太陽と地球間の平均距離に相当します。

(注3) スペクトル・エネルギー分布は、横軸を波長、縦軸を天体の明るさにしたグラフです。波長は光を発する物体の温度と関係しています。中心星から遠いほど温度が低くなることを考えると、グラフから中心星からの位置と明るさの関係がわかり、画像ではまだ捉えることのできない中心星近傍の状態を推測することができます。

(注4) アルマ望遠鏡は南米チリにある、電波干渉計と呼ばれる望遠鏡です。複数の電波望遠鏡を一つの望遠鏡として用いるため、単一の望遠鏡と比べ、より高解像度、高感度で天体を観測することができます。大きな塵を見ることのできる電波でおうし座 HL 星に付随する原始惑星系円盤を観測したところ、多重リング構造が発見されました。

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