京都産業大学の研究者を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡を用いて、2013年11月14日 (世界時および日本の日付) に急激な増光が始まった直後のアイソン彗星 (C/2012 S1) の分光観測に成功しました。この観測は、11月15日 (世界時、日本時間では11月16日) に、すばる望遠鏡に搭載した可視光高分散分光器 (HDS) を用いておこなわれました。
すばる望遠鏡の集光力を生かした分光観測では、非常に高精度のスペクトルデータを短時間で得ることができました。そこには、気体状態の分子や原子 (C2, NH2, H2O+, O, Naなど (注)) から放たれる多くの輝線が記録されています。アイソン彗星の急増光のメカニズムを明らかにする上で非常に貴重なデータとなりそうです (図1)。
太陽に接近しているアイソン彗星は、なかなか明るさが予想通りに明るくならず人々をやきもきさせていましたが、2013年11月14日 (世界時および日本の日付) 以降に急激な増光を起こし、2日間で 10 倍以上明るくなっていることが確認されています (吉田誠一さんのウェブサイトなどを参照:http://www.aerith.net/comet/catalog/2012S1/2012S1-j.html)。この頃、アイソン彗星は太陽までの距離が 0.7 天文単位を切り、既に金星の軌道の内側にまで入っていました。何が急増光を引き起こしたのか、現時点ではまだ原因がつかめていません。
このような状況の中で、京都産業大学の研究者を中心とする研究チームが、すばる望遠鏡に搭載された可視光高分散分光器 (HDS) を使って、急激な増光が始まった直後のアイソン彗星の観測に成功しました (2013年11月15日世界時、日本時間では11月16日午前0時8分から20分間)。観測当日のアイソン彗星は高度角が約 20 度までしか上がらないという低空での観測、加えて薄曇りという厳しい観測条件でしたが、すばる望遠鏡の集光力により、非常に高精度のスペクトルデータを短時間で得ることができました。観測されたスペクトルには、気体状態の分子や原子 (注) から放たれる無数の輝線が記録されています。
今回、彗星本体が急増光した直後という非常に貴重なタイミングで観測に成功したことは、アイソン彗星のこの急増光のメカニズムを明らかにする上で非常に貴重なデータとなりました。特に今回観測されたスペクトルには、ナトリウム原子の非常に強い輝線が含まれています (図2)。ナトリウム原子は彗星に含まれる塵から蒸発して出てくると考えられていますが、観測当時のアイソン彗星の塵による反射光は弱くこの考え方には沿わないため、ナトリウム原子の生成機構についても新たな知見が得られる可能性があります。
研究チームは取得したデータをこれから詳細に解析し、原始太陽系円盤から彗星に取り込まれた分子の形成温度や、急増光の原因となった可能性のあるガスの成分比などを詳しく調べ、アイソン彗星の起源や急増光のメカニズム、太陽系の成り立ちに迫る予定です。
<注>
C2, NH2, H2O+, O, Na はそれぞれ炭素の二量体、アミドゲンラジカル、水分子イオン、酸素原子、ナトリウム原子です。