すばる望遠鏡について

観測装置

OH夜光除去分光器 OHS (OH-Airglow Suppressor)

OH夜光除去分光器 OHS (OH-Airglow Suppressor)

上層大気の OH 分子が出す夜光を取り除くことで、高い感度を実現する分光器。遠方の銀河や褐色矮星などの暗い天体の粗い分光観測に特に能力を発揮します。左はファーストライトで活躍した OHS の撮像部の CISCO。OHS は、すばる望遠鏡のナスミス焦点の片方 (赤外線) に装着されます。

▶︎関連トピックス
2000年5月) OHS がファーストライト!

大気の光を取り去って観測

OHSは地球の大気の上層部分で近赤外の波長で輝いている夜光成分を取り去って、暗い天体の検出能力を大幅に向上させることのできる装置です。2つあるナスミス焦点の片側に常設されます。遠方の銀河を構成する星の種類や、褐色矮星性質を調べるというような、暗い天体の粗い分光観測に、特に能力を発揮します。CISCOはOHSのための近赤外の分光器および撮像装置ですが、OHSとは別個に使うこともできます。

装置の説明図

装置の説明図

望遠鏡からの光は、図の左側からスリットを通って装置に入ります。光は、分光器によって波長 (色) に分けられ、「夜光マスク」によって、OH分子の輝線にあたる光だけが取り除かれます。その後、分光器によって再び波長に分解されない光にもどされ、CISCOのよる観測に使われます。OH夜光除去を行わないと、この波長域では大気中のOH分子が明るく輝いています (右下図の最上段 a) が、OHSを用いることによってその大半が取り除かれ (同 b) 、画像処理を行うことによって、最終的には暗い天体のデータを取ることができます。 (同 c)

CISCOがとらえた星のゆりかご

CISCOがとらえた星のゆりかご

CISCOによる星形成領域S106の近赤外線画像。距離は約2000光年。明るい中心付近には、赤外線源IRS4と呼ばれる大質量星があります。その星の年齢は約10万年、質量は太陽の20倍程度です。上下の方向に広がる砂時計状の構造は、この星から双極状に噴出した物質の流れ (アウトフロー) が作り出した星雲と考えられています。また中心部分のくびれは、ガスや塵からなる巨大な円盤がIRS4を取り囲むように存在しているためと推測されています。

▶︎ 観測成果
すばるが見つめる星のゆりかご (2001年2月13日)

すばるディープフィールド

近赤外線でみた深宇宙

CISCOが波長2.1ミクロンの近赤外線で撮影した「すばるディープフィールド」の画像には、24.5等級の銀河までが検出されています。銀河の数を明るさごとに数え上げ、暗い銀河がどのように増えていくのかを調べ、銀河進化のモデルと比較すると、この方角の宇宙の果てまでにあるすべての銀河から来る近赤外線のうち、90%以上が「すばるディープフィールド」個々の銀河に分解されて分解されて写っていることがわかりました。

▶︎ 観測成果
すばる、宇宙を見通す (2001年4月30日)

▶︎ 観測成果
赤外線で見た深宇宙 すばるディープ・フィールド (1999年9月16日)

コラム

OHS / CISCO

近赤外線で見ると、地球の夜空は大気中のOH分子からの輝線放射で明るく光っています。OHSは、まず光分散のスペクトルを作り、邪魔なOH分子の輝線に相当する波長の光のみを精密に取り除いた後で、再び低分散の光にもどすというユニークな特徴をもっています。夜光を取り除くことにより、2.5倍暗い天体を観測することができます。

遠方の銀河からの紫外線や可視光線は、宇宙膨張によって近赤外線へずれています。非常に遠方からの光であるので微弱になっている上に、OH分子の輝線により夜空が明るいので、観測が大変困難でした。この難しい観測を可能にするためにOHSは開発され、暗い遠方銀河の観測に活躍しています。

OHS/CISCOは赤外ナスミス焦点に常設されていて、緊急の場合でもすぐに観測可能です。CISCOは広視野の近赤外線カメラとして単独で使われることもあります。ファーストライトの画像の多くはCISCOによるものです。

(サポートアストロノマー青木賢太郎さんとの2002年末のインタビューより)