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宇宙ライター林公代の視点 (24) : 超巨大ブラックホールに迫る

2017年4月12日 (ハワイ現地時間)

合体銀河中の超巨大ブラックホールを撮影

  前編の第 23 話で銀河の中心にはほぼ 100 パーセントの割合で、超巨大なブラックホールがあることを述べました。それならガスをもつ銀河同士が合体すれば、銀河それぞれが持っていた超巨大ブラックホールが二つ、観測されるはずです。超巨大ブラックホール同士は最終的には合体しますが、合体には宇宙年齢に匹敵するほど長い時間がかかると考えられています。

  前編で紹介した、赤外線の分光による合体銀河の観測では、活動的な超巨大ブラックホールのうち明るいほうを観測していました。なぜなら、分光観測では光を波長ごとにわけて詳しく調べる必要があり、十分な明るさがある天体でないと分光できないからです。

  しかし、超巨大ブラックホールを持つ銀河同士が合体した時に、どのようなことが起こるかを知るためには、それぞれの銀河がもっていた二つの超巨大ブラックホールの様子を観測したい。それが次の観測ターゲットになりました。

  分光でなく撮像、つまり画像を撮る方法なら、暗い天体でも観測できます。そこで今西さんは、すばる望遠鏡の近赤外線分光撮像装置 IRCS と補償光学装置 (注1) を用いて 29 の合体銀河を観測しました。

  工夫したのは波長の違う二つのフィルター (K バンドと L バンド) を用いた点です。赤外線で観測すると、星が大量に生成されている様子も、ガスを盛んに飲みこむ活動的な超巨大ブラックホール (以後、活動銀河中心核) も明るく見えます。ただし星生成に比べて活動銀河中心核はエネルギーの生成効率がはるかに高いため、温度の高い塵が大量に作り出され、L バンドのフィルターで観測すると非常に明るく輝いていることがわかるのです。

  そこで二つのフィルターで得た画像の明るさの比較から、活動銀河中心核を区別することができます。観測の結果、ほぼすべての合体銀河で少なくとも一つの活動銀河中心核が観測できました。そのうち二つ以上の活動銀河核が見つかったのは4天体でした (図1)。


図1

図1: 塵に埋もれた活動銀河中心核が二つ確認された、4つの合体銀河。右肩に L と書かれているのが L バンドのフィルターによる撮像で、二つの活動銀河中心核が存在することがわかります。(クレジット:国立天文台)


  観測結果から、二つ以上の活動銀河中心核が見つかったのは、全体の約 15 パーセントであることがわかりました。合体前のそれぞれの銀河が超巨大ブラックホールを持っていて、両方が物質を盛んに飲み込んで活動的になれば、二つの活動銀河中心核を持つ合体銀河がもっと見つかってもいいと思われるのに、観測されたのは約7分の一。なぜでしょうか?


(注1) 補償光学:大気中の空気の乱れにより天体からの光の方向が曲げられ、写真の中で光が散らばってしまい、観測に支障を来す。このため光の散らばり方を計測し、それをもとに戻す工夫をすることにより、鮮明な画像が得られるようにする装置。


見えるはずなのに、なぜ見えない?

  活動銀河中心核が観測されるためには、超巨大ブラックホールがガスを激しく飲みこんで活動的になる必要があります。しかし、観測されなかった天体があるということは、それほど激しくガスが落ち込んでいるわけではなかったということが考えられます。

  たとえば星が大量にあって明るい銀河 A と、A より星が少なく、やや暗い銀河 B が合体するとします。星の質量に比例して超巨大ブラックホールに落ち込む物質の量が決まっているならば、星の質量の比と同じくらい、超巨大ブラックホールに物質が落ち込んで活動銀河中心核も輝くはずです。確かに、星の質量の比が3対1ぐらいの銀河が合体した場合、活動銀河中心核の明るさの比も3対1ぐらいになっている合体銀河の例が観測されました。

  しかし、星の質量の比が約5対1と大きな差がある銀河同士が合体した場合は、活動銀河核の明るさの比は 15 対1、あるいは 20 対1ぐらいに広がり、そうなると暗いほうの銀河の活動銀河中心核は存在していても暗くて撮像できないのだと考えられるのです。

  「つまり、大質量の銀河では大量に激しく物が落ち込んで、活動銀河中心核が明るく輝いている。一方、質量の小さな銀河では、星の質量から予想されるよりも少ししか物質が落ち込まないために活動銀河中心核があまり輝かないのではないかと考えられます」と国立天文台ハワイ観測所の今西昌俊さんは説明します。


銀河形成をめぐる大問題

  実はこの観測結果に関連があるのではないかと思われる、不思議な現象が宇宙初期の銀河で観測されています。それは「銀河のダウンサイジング現象」です。ダウンサイジングとはサイズが小さくなること、つまり「銀河の小型化現象」と言い換えてもいいかもしれません。

  前編で、宇宙の初期にはまず小さな銀河ができてそれらが衝突合体することで大きな銀河に成長していく銀河形成説が有力だと書きました。ところが実際には、大きな銀河の方が小さな銀河より先に星形成を終えていたという、理論とは逆の現象が観測されているのです。

  なぜ大きな銀河は先に星形成を止めたのか。その原因の一つが、活動銀河中心核にあるのかもしれません。活動銀河中心核に大量にものが落ち込んでどんどん活動が活発化して、ついに周りのガスを吹き飛ばしてしまった結果、材料がなくなるので星生成が止まってしまったのではないかと。つまり大質量の銀河ほど、星の質量に対して活動銀河中心核が活発化するということです。重い星が燃料消費が早すぎて、寿命が早いのに似ています。

  しかし、これらはまだ推測の段階にすぎません。今後、さらに観測や理論研究も進める必要がありますが、活動銀河中心核や銀河形成は謎が多い、非常に面白い分野なのです。


宇宙初期に超巨大ブラックホールはどのようにできたのか?

  これまで紹介した合体銀河の活動銀河中心核は、地球から比較的近い範囲で観測されたものでした。一方、宇宙の果てに近い遠方で、非常に明るく輝く活動銀河中心核が見つかっています。超巨大ブラックホールに落ち込む物質の量から、ブラックホールの質量が求められますが、その質量は何と太陽の質量の約 10 億倍という大質量のものです。

  観測に使われたのはすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ HSC (Hyper Suprime-Cam、ハイパー・シュプリーム・カム) です。すばる望遠鏡では、HSC を用いて全天の約 30 分の一というとても広い領域を約5年間 (約 300 夜) で捜索していく大規模な観測計画 (HSC 戦略枠プログラム) が2014年からスタートしています。今回観測された活動銀河核はそのプログラムの中で発見された天体で、距離は赤方偏移 6.9、現在の宇宙理論に換算すると約 129 億光年の距離で観測されました。

  ここで、「あれ?可視光の観測装置 HSC でブラックホールが観測できるの?」と思われた方がいるかもしれません。銀河の中心にある活動銀河中心核にガスや塵が落ち込む際、周囲が摩擦熱で高温に温められても大量の塵が周りを取り囲むために可視光ではさえぎられては観測できない。けれども波長が長い赤外線を使えば、塵を透過して観測できると前編で説明しましたね。

  ところが、今回発見に使われたのは、可視光で観測する HSC です。なぜ可視光で観測できたのでしょうか?

  確かに塵に覆われた活動銀河中心核は、可視光では観測はできません。しかし塵に遮られなければ、観測は可能なのです。超巨大ブラックホールに大量のガスが飲みこまれる際、ガス同士は激しい衝突や摩擦で円盤状に落ち込んでいきます。その外側には塵が存在しますが、方向によって塵の厚みが異なります。その様子を真上から見ると、アンパンのような形に見えるはずです。

  アンパンの中心 (超巨大ブラックホール) にどんどん落ち込むと、ブラックホールはどんどん膨らんで成長していきます。さらに大量のものが落ち込んでいくと、(超巨大ブラックホール周辺の円盤からの) 放射によってアンパンの厚みが小さな方向の塵やガスを吹き飛ばしてしまい、ドーナツのようになるのです。

  塵やガスが吹き飛ばされてしまえば、可視光を遮るものがなくなります。あとは「天体の角度」の問題になります。地球からみてドーナツを真上から観測できるような向きに天体があれば、観測できるわけです。こうした条件が重なった活動銀河中心核が今回、すばる望遠鏡の HSC で観測されたのです。

  まわりの塵やガスを吹き飛ばすほど明るく輝く超巨大ブラックホールなら、遠方にあっても、HSC で観測できます。ただし宇宙の遠くにあるため、元々非常に明るいとしても、見かけは暗くなってしまいます。空のどこにあるかもわからないので、広い視野で暗い天体まで見つけることのできる HSC の強みを生かし、さらに戦略枠プログラムという捜索プロジェクトだからこそ、発見が期待される天体です。最初の1つが観測されましたが、今後数年間の掃索で、活動銀河中心核が 20~30 個見つかるのではないかと考えられています (注2図2)。


図2

図2: HSC による観測から見つかった遠方の活動銀河中心核。中央の赤い点がその天体。(クレジット:松岡良樹/NAOJ)



(注2) 赤方偏移7付近での発見が期待されています。


私たちが知らないブラックホール成長メカニズムがあるのか?

  ところで、宇宙誕生後わずか数億年の宇宙に、太陽質量の約1億倍もの活動的な超巨大ブラックホール (活動銀河中心核) が発見されたことは何を意味するのでしょうか?現在の理論では、太陽の 100~200 倍位の重さをもつ、種となるブラックホールがまずできて、そのブラックホールに物が落ち込んでどんどん成長していくと考えられています。

  その成長のペースで考えると、赤方偏移 6.9 (宇宙誕生後約8億年) で太陽質量の 10 億倍の超巨大ブラックホールを作ることは、ぎりぎりできるかできないかの境界線だそうです。

  今後、HSC 戦略枠プログラムで、遠方にもっと重い超巨大ブラックホールを持つ活動銀河中心核が発見されれば、これまでのブラックホールの作り方の理論では説明ができなくなります。

  「私たちが知らないブラックホール成長メカニズムが宇宙に存在するのかもしれない。同じころの活動銀河中心核をもっと見つけ、宇宙初期の超巨大ブラックホールがどうできるのか。そのメカニズムを観測的に明らかにしたい」と今西昌俊さんは言います。これからの観測が期待されます。


今後 - 多波長で超巨大ブラックホールの正体を正しく明らかに

  超巨大ブラックホールや活動銀河中心核について、すばる望遠鏡でのユニークな観測手法を紹介しました。今西さんらは超巨大ブラックホールについて、さらに様々な手法で観測したいと考えているそうです。たとえば、電波望遠鏡アルマを使った観測も既に始めています。赤外線は塵を透過しますが、塵が大量にある場合はさすがに遮られてしまうこともあります。しかし赤外線より波長が長い電波ならその塵も透過できます。今西さんは「多波長での観測による天文学で、銀河中心の超巨大ブラックホールの正体を正しく明らかにしたい」と抱負を語っています。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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