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宇宙ライター林公代の視点 (23) : 銀河にひそむ超巨大ブラックホール

2017年4月3日 (ハワイ現地時間)

銀河と超巨大ブラックホールが共に進化していく!?

  私たちの銀河系やアンドロメダ銀河など、ある種の銀河 (注1) の中心にはほぼ 100 パーセントの割合で、超巨大ブラックホールが観測されてきています。

  超巨大とはどのくらいでしょうか?その質量は銀河の「ある部分」の星全部の質量の 0.2~0.5 パーセントと考えられています。「ある部分」が大きければ、中心にあるブラックホールも大きいのです。つまり銀河と超巨大ブラックホールの質量の間には相関関係があるのです。「ある部分」とは古い星が楕円状に集まった「スフェロイド成分」と呼ばれる部分です (注2)。ちなみに私たちの銀河系はスフェロイド成分が小さめです。それでも銀河系中心の超巨大ブラックホールの質量は、太陽数百万個分と推定されています (図1)。


図1

図1: 合体銀河における活動的な超巨大ブラックホール付近の想像図。超巨大ブラックホール (中心の黒い点) にガスが吸い込まれる際、ガス同士は激しい衝突をしながら円盤状に飲みこまれていきます。この時、円盤が摩擦熱で高温になり明るく輝きます。ブラックホール自体は見えませんが、この円盤から放つ電磁波が観測されるのです。また、超巨大ブラックホールに大量のガスが飲みこまれ、明るく輝く状態になっている天体を「活動銀河核」と呼びます。(クレジット:国立天文台)


  現在もっとも有力な銀河形成理論によれば、宇宙の始まりの頃には、ガスをもつ小さな銀河が多数あり、そうした小さな銀河が衝突・合体をくりかえすことによって、少しずつ大きな銀河に成長してきたとされています。銀河中心にはブラックホールがありますから、銀河が成長すると同時にその中心にあるブラックホールも成長し、共に進化 (「共進化」と呼びます) してきたと考えられるのです。

  では実際に、中心に超巨大ブラックホールがある銀河同士が衝突した時に何が起こるのでしょうか?ガス同士がぶつかることで、ガスは圧縮され密度が高くなり、星が大量に作られます。同時に超巨大ブラックホールにもガスが落ち込んで、ブラックホールが「太って」いくはずです。つまり銀河とブラックホールの「共進化」が起こると考えられます。その時に超巨大ブラックホール周辺でどのようなことが起こっているのか。理論的に予想するだけでなく、観測して検証したいというのが天文学者の大きな目的です。


(注1) この記事では銀河という場合、ガスをもつ銀河をさします。

(注2) 古い星が楕円状に集まった「スフェロイド成分」と呼ばれる部分を持つ銀河。スフェロイドとは立体的な形の一種で、楕円体を回転させたような形。生物学で用いられる、球状の細胞集合体とは異なる意味です。


ブラックホール観測の難しさ

  しかし、超巨大ブラックホールが太る現場を観測するには、むずかしさがあります。まず、ブラックホール自身は物を吸い込むものの輝かないので、ブラックホールそのものを観測することはできません。では何を観測するのでしょう。答えは「電磁波」です。

  超巨大ブラックホールに大量のガスが飲みこまれる際、ガスは円盤状に落ち込んでいきます。その円盤内でガス同士が激しく衝突し、摩擦で温められ、高温になって放つ「電磁波」を観測することで、ブラックホールについて多くの情報を得ることができるのです。

  超巨大とは言っても、ブラックホールは銀河に比べれば非常に小さい天体で、銀河の中心にあります。その中心近くにある円盤が明るく輝いても、合体銀河では周囲に大量の塵があるために、地球が塵のある方向にあれば、波長が短い可視光では塵にさえぎられてしまい、観測できません。可視光より波長が長い「赤外線」を使えば、塵にさえぎられる割合が格段に減ります。そこで、すばる望遠鏡の出番です。


赤外線観測でも、すばる望遠鏡は世界トップ

  すばる望遠鏡にはいくつもの特徴がありますが、銀河中心にある塵に覆われた超巨大ブラックホールの観測ですばる望遠鏡が優れていたのは、赤外線 (注3) による観測です。

  現在、世界に口径8メートル級の大望遠鏡は約 10 台あります。チリやスペインの望遠鏡は標高約2000 メートルの場所にあります。すばる望遠鏡は標高 4200 メートルのマウナケア山頂近くにあり、特に波長 3~4 マイクロメートルの赤外線が吸収される度合いが小さく、地球上でそのような波長帯の観測にもっとも適した場所なのです。

  マウナケア山頂付近には8メートル級望遠鏡が4台ありますが、そのうちケック望遠鏡は小さな鏡をつなぎ合せているため、鏡と鏡の間のつなぎ目からの熱放射が赤外線観測の邪魔をします。その点、すばる望遠鏡は一枚鏡であり、赤外線観測で世界トップの望遠鏡と言えます。


(注3) 電磁波は波長の長さによって呼び方が異なり、私たちの眼に見える可視光はだいたい 0.4~1 マイクロメートル (1マイクロメートルは 1000 分の一ミリメートル)。それより波長が長い、1~300 マイクロメートルを赤外線と呼びます。その内、1~23 マイクロメートルには、地表から観測できる波長帯が存在します (これを「地球大気の窓」と呼びます)。赤外線は地球の大気によって吸収を受けますが、標高が高くなるほど観測地点より上にある大気の量が少なくなるため、赤外線が吸収される量が少なくなり、観測に好都合なのです。


合体銀河の塵の中には確かに活動的な超巨大ブラックホールが存在した!

  ガスをもつ銀河同士が合体したとき、その中心にある超巨大ブラックホールは、ガスをたくさん飲みこんで明るく輝いているはずです。このように超巨大ブラックホールにガスなどの物質が落ち込んで、非常に明るく輝いている状態になった天体を「活動銀河中心核 (AGN)」と呼びます (注4)。

  当時国立天文台ハワイ観測所にいた今西昌俊さんらは、3~4マイクロメートルの赤外線で、ガスを豊富に持つ合体銀河の観測を行いました。ただし赤外線で撮像観測するだけでは、銀河同士の合体で爆発的に生まれる多数の星も、活動銀河中心核も明るい天体としか見えません。その二つを区別する必要があります。そこで今西さんらが行ったのは、「分光観測」です。光のスペクトル (注5) を調べることで、その特徴から星生成 (活発に星形成をしている銀河または領域) と活動銀河中心核を区別するという、独自の手法を用いたのです。

  具体的に、星を生成している銀河と、塵に埋もれた活動銀河核のスペクトルはどう違うのでしょう。たとえば M82 のような激しく星を生成する銀河では、波長 3.3 マイクロメートルのところに、強い放射が見られるのが特徴です (図2)。これは PAH (芳香族炭化水素) の放射で、たとえば石油などに含まれる物質であり、宇宙の星間空間にも広く分布するものです。


図2

図2: 星を生成している銀河の赤外線で見られるスペクトル (クレジット:国立天文台)


  一方、塵に埋もれた活動銀河核 (AGN) は図3のように、PAH 放射を示さず、3.4 マイクロメートルのところで光の量が減っています。これは炭素系の塵に吸収されていることを示すことが、室内実験からわかっています。


図3

図3: 塵に埋もれた活動銀河核の赤外線で見られるスペクトル (クレジット:国立天文台)


  この手法を用いて、地球から約 20 億光年以内にある数十個の合体銀河をすばる望遠鏡の近赤外線分光撮像装置 IRCS (アイアールシーエス) で観測した結果、ガスをたくさんもつ銀河同士が合体すると、星が形成されるだけではなく、塵の奥深くに埋もれた超巨大ブラックホールに大量の物質が落ち込み、活動銀河中心核活動として明るく輝いていることが明らかにされたのです (図4)。

  すばる望遠鏡の特徴を生かした独自の観測手法を考案することで、数多く存在すると予想されながら、これまでほとんど観測されていなかった塵に埋もれた活動銀河中心核を、このように系統的に観測できたのは世界で初めてです。


図4左 図4右

図4: すばる望遠鏡で実際に観測された天体のスペクトル。左の銀河では塵に埋もれた活動銀河中心核が観測されています。右の銀河では塵に埋もれた活動銀河中心核と、星生成活動の両方が観測されました。(クレジット:国立天文台)


  今西さんはハワイ大学留学中にこの観測手法を考案し、当時イギリスが運用していた UKIRT (ユーカート) 望遠鏡で 2000 年頃に6個の銀河を観測してみました。その結果、塵に覆われた活動銀河中心核が観測できるという確信を得たものの、望遠鏡が小さかったためにそれ以上遠くの銀河を多数観測することはできませんでした。そこで、すばる望遠鏡に観測提案を出し、数年かけて 40~50 個もの合体銀河の系統的な観測を行うことに成功しました。

  「従来の可視光線による観測だけでは、銀河の表面しか観測できないため、合体銀河では星生成しか起こらないという間違った理解をしてしまいます。実際に合体銀河の奥深くで起こっている本質的なこと、つまり活動銀河中心核については、塵を透過する赤外線を観測することでしかわからなかったのです」と今西さんはこの観測の意味を説明します。


(注4) 私たちの銀河系の中心にある超巨大ブラックホールは安定していて、ほとんど物が落ち込んでいないため、現在は活動銀河中心核とは呼びません。過去には活動銀河中心核として輝いていた時期があるという説もあります。数十億年後にアンドロメダ銀河と衝突して超巨大ブラックホールに大量にものが落ち込むようになれば、活動銀河中心核になるかも知れません。

(注5) スペクトル:天体の光を波長に分け、波長ごとの強さの分布をえがいたもの。物質は組成によって特有のスペクトルを描くため、元素組成などを調べることができる。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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