観測成果

太陽系外惑星が作る「腕」の検出に成功

2013年2月7日

【研究概要】

  総合研究大学院大学の研究者を中心とする研究チームは、さそり座 J1604 星と呼ばれる若い星 (正式名称 2MASS J16042165-2130284) の周囲にある原始惑星系円盤に、惑星が作る「穴」、そして穴をまたいで内部に伸びる「腕」構造を、すばる望遠鏡で直接撮像することに成功しました。世界最高精度の解像度で原始惑星系円盤の姿を観測することで穴をまたぐ腕構造を鮮明に写し出し、さらにその腕が曲がっていることを突き止めた点で画期的な観測成果です。観測で写し出された腕構造はその付近で生まれつつある惑星によって引き起こされた可能性があります。J1604 星は太陽と似た質量の天体であるため、惑星がどこでどのように生まれるのかという太陽系誕生の謎を解明する上で、本研究成果は重要な手がかりを与えてくれそうです。


<研究背景>

  私たちの住む太陽系にある惑星はどのようにして誕生したのでしょうか?およそ 46 億年前、生まれたばかりの太陽の周囲にはガスや塵が円盤状に存在していたと考えられます。この円盤中では塵の集積によって微惑星ができ、さらに微惑星同士が合体・成長したり、ガスを捕らえたりすることで惑星が生まれたと考えられています。このガスや塵の円盤状の集まりは原始惑星系円盤と呼ばれます。惑星が生まれる現場であるため、大変重要な観測対象です。

  中心にある恒星が数 100 万歳の年齢に達する頃、原始惑星系円盤の中心部分からガスや塵が無くなっていき、惑星が活発に形成されると考えられています。このとき、惑星の材料である塵は円盤の外側にはまだ豊富に残るものの、内側では消失しつつあり、それが円盤内の穴 (空洞) として観測されます。この穴は、円盤内で既に誕生している惑星の影響で作られた可能性があるため、惑星誕生の謎を解き明かす鍵となります。しかしながらすぐ近くに明るい中心星があるために、円盤内側に存在する穴を観測で直接とらえるのは大変困難でした。さらに穴内部に惑星形成の兆候を示すような構造を持つ天体は、これまでほとんど見つかっていませんでした。


<すばる望遠鏡観測結果>

  総合研究大学院大学の眞山聡さんを中心とする研究チームは、惑星誕生の謎を解き明かすために、すばる望遠鏡に搭載された惑星探査用赤外線カメラ HiCIAO (ハイチャオ) 及び大気揺らぎの影響を補正する補償光学装置 (補足) を用いて観測を行いました。観測対象は、地球から距離約 470 光年にある、年齢約 370 万歳、太陽と同程度の質量のさそり座 J1604 星です。観測では、地球型惑星の主材料である塵粒子が、中心星からの赤外線を散乱した光をとらえました。観測の結果 (図1)、まず (1) 中心星を取り囲む原始惑星系円盤、(2) 円盤上の穴、(3) 円盤内縁から穴をまたいで内部に伸びる腕状構造、そして (4) 円盤上の非対称なくぼみ構造を検出しました。0.07 秒角 (1秒角が 1/3600 度) という世界最高精度の解像度で原始惑星系円盤の姿を観測することで穴をまたぐ腕を鮮明に写し出し、さらにその腕が曲がっていることを突き止めたという点で画期的な観測成果です。アルマ望遠鏡による電波観測で HD 142527 という星にガスでできた腕構造が見つかった例はありますが、塵でできた腕構造が太陽と似た質量の天体で直接検出されたのは、本研究が初めてです。また今回の観測から、写し出された円盤の内縁半径は 63 天文単位 (1天文単位は太陽と地球との平均距離で1億 5000 万キロメートル) 、中心星から腕までの距離は 33 天文単位 (およそ太陽—海王星間の距離) と計測されました。


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図1: さそり座 J1604 星 (距離 470 光年) を取り巻く原始惑星系円盤の赤外線画像 (波長 1.6 マイクロメートル)。左側のカラーバーは観測された明るさの輝度分布を表します。中心星付近は星からの強い光の影響が大きいため、黒く塗りつぶしてあります。1天文単位は太陽と地球の距離に相当します。(1) 原始惑星系円盤、(2) 円盤上の穴 (ピンク破線の領域)、(3) 円盤内縁から穴をまたいで内部に伸びる腕、そして (4) 円盤上の非対称構造 (くぼみ) が示されています (クレジット:総合研究大学院大学、国立天文台)。ラベル無し白黒図はこちら


<観測結果の解釈>

  盤と惑星との相互作用についての理論的研究によると、円盤中に惑星が存在した場合、惑星からの重力により、弧状に曲がった構造が惑星周囲に作られることが知られています。今回 J1604 星で見つかった腕構造の形状や曲がる角度が、理論研究からの予想とよく似ていることから、この腕は生まれつつある惑星によって作られたものであると考えられます。さらに惑星は円盤内に非対称な構造も作ります。J1604 で写し出された円盤に見られるくぼみ部分 (図1) がそのような例ではないかと、研究者グループは考えています。

  また、穴の成因にはいくつかの説がありますが、J1604 の観測で検出された穴の深さと幅が、惑星形成理論で提言されている「惑星が作る穴」と良く一致していることから、これもまた J1604 には埋もれて隠された惑星があることを示唆するものです。この場合、中心星から 40-50 天文単位の領域に惑星があると思われます。


<まとめと今後>

  本研究は惑星のダイナミックな誕生環境を鮮明に描き出しました。特に、原始惑星系円盤の穴をまたぐ腕の観測に成功し、本天体で形成されつつある惑星の兆候を捉えました。これは惑星が誕生可能な環境条件を明確にしたという意味で重要です。また本天体は、円盤が地球に対してほぼ正面向きであることから、円盤内部の構造を観測しやすい向きとなっています。このため原始惑星系円盤の構造をモデル化するのに理想的な天体であり、理論研究の専門家の興味を強く惹きつけました。J1604 は今後も引き続き、実態により近い詳しい理論を作り上げる上で適した観察対象であると言えます。このような研究をより一層進めることにより、どのようなな環境で惑星が生まれやすいのかという謎が解かれていくでしょう。そしてそれは、私たちの住む太陽系のような惑星系で、中心星からどの程度の距離にどうやって惑星が生まれ得るのかという誕生の物語を紐解く鍵を握っているのです。


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図2: J1604 星をとりまく原始惑星系円盤の想像図。(クレジット:総合研究大学院大学)



<研究論文出展>

Mayama, S. et al. 2012, Astrophysical Journal Letter 760 号, L 26 ページ, "Subaru Imaging of Asymmetric Features in a Transitional Disk in Upper Scorpius”


<研究チーム>

  本研究は、すばる望遠鏡による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト SEEDS【プロジェクト代表者:国立天文台/総合研究大学院大学の田村元秀准教授】の一環として行われ、本プロジェクトメンバーである総合研究大学院大学の眞山聡助教を主体に、日米台独仏 55 名の共著者による論文が、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカルジャーナル・レター」の 2012年12月1日号に掲載されました。

  SEEDS はすばる望遠鏡と観測装置 HiCIAO 及び補償光学装置を用いた観測によるプロジェクトで、2009年から進められています。メンバーは国立天文台、米国・プリンストン大学、NASA、ドイツ・マックスプランク天文学研究所などの研究者によって構成されています。


<研究チーム>

眞山聡 (総合研究大学院大学、論文筆頭著者)、橋本淳 (国立天文台)、武藤恭之 (工学院大学)、塚越崇 (茨城大学)、日下部展彦 (国立天文台)、葛原昌幸 (東京大学/国立天文台)、高橋安大 (東京大学/国立天文台)、工藤智幸 (国立天文台)、深川美里 (大阪大学)、高見道弘 (台湾中央研究院天文及天文物理研究所)、百瀬宗武 (茨城大学)、周藤浩 (国立天文台)、田村元秀 (国立天文台/総合研究大学院大学)、R. Dong, (プリンストン大学), B. Whitney (ウィスコンシン大学), J. P. Wisniewski (オクラホマ大学)、K. Follette (アリゾナ大学)


<研究助成情報>

  本研究の一部は、科学研究費補助 (22000005, 23103004, 24840037, 24103504)、アメリカ国立科学財団 (1009314, 1009203)、総合研究大学院大学学融合推進センター若手研究者研究支援による助成を受けています。


(補足)

  補償光学装置は、地球大気による星像の乱れを補正することで高解像度を達成する観測装置です。地球大気により乱された星像の状態をセンサーで測定し、可変形鏡と呼ばれる鏡で大気揺らぎの影響をリアルタイムで補正することにより、星像の乱れを補正します。これにより、望遠鏡の口径に応じた本来の性能に近い解像度で観測を行うことが可能になります。


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補足図: 波面補償光学装置の仕組みの模式図。地球大気により乱された星像の状態をセンサー (図中の A) で測定し、制御システム (図中の B) での信号処理を元に、可変形鏡 (図中の C) で大気揺らぎの影響をリアルタイムで補正することにより、星像の乱れを補正します。(クレジット:国立天文台)




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