観測成果

遠方宇宙

2つの輝線で探る銀河の過去、宇宙の過去

2012年3月29日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

デイビッド・ソブラルさん (オランダ・ライデン天文台 / イギリス・エジンバラ王立天文台) を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡とイギリス赤外線望遠鏡 UKIRT による観測から、およそ 90 億年前の「古代」の宇宙に数多くの銀河を発見しました。2波長での観測を組み合わせた今回の銀河探査は、遠方にある星生成銀河を効率的に選び出し、それらの星生成活動の様子を詳しく調べる上で、大変強力な手法となりました。

銀河がどのように現在の姿に至ったのを知るためには、私たちが住む銀河系の外の天体を詳しく調べることが大切です。特に、異なる時代の宇宙にある銀河の特徴を比べることで、銀河の生い立ちや進化について手がかりを得ることができます。しかしながら、遠方宇宙の観測は容易ではありません。従来の研究では観測領域が狭く銀河サンプルの数も少ないため、「銀河がいつ星生成活動のピークを迎えるのか?」や「どのような物理過程が銀河の星生成活動を担っているのか?」といった重要な疑問には、十分に答えられていませんでした。

研究チームは今回、すばる望遠鏡で水素原子が発する輝線 (原子や分子から放射される特定の波長の光) を、UKIRT で酸素原子が発する輝線を観測し (図1)、およそ 90 億年の宇宙の「俯瞰図」を描き出しました。星生成銀河から発せられる2種類の輝線を広範囲で探査することで、従来行われてきた1種類だけの輝線による探査では多くの銀河を見逃してしまったり、あるいは銀河の性質について情報を正確につかみにくい、といった問題を克服したのです。

2つの輝線で探る銀河の過去、宇宙の過去 図

図1: 2つの輝線による遠方銀河探査の例。上は UKIRT による観測で、酸素輝線をカバーする波長のフィルターで観測した画像が左、より幅広い波長をカバーするフィルターで撮影した画像が中央、両者を差し引きした画像が右。下は水素輝線を利用したすばる望遠鏡による同様の観測。差し引きをすることで輝線を強く放つ銀河だけが浮かび上がる。このような銀河がおよそ 90 億年前の宇宙にある星生成銀河。

研究チームは今回、水素と酸素の両方で輝線が見られる 190 の遠方銀河を発見し、およそ 90 億年前の宇宙ではどれほどの星生成が起こっていたのかを見積もりました。そして、他の研究との比較から、銀河における星生成活動は過去 110 億年で継続的に減少傾向であることを確認しました (図2)。

「銀河おける星生成活動などの物理過程を2種類の光で観測することで、遠く離れた宇宙で何が起こっているのかを調べる視界が広がりました。それはまるで音楽をステレオイヤホンで聞くかのようです。片側のイヤホンだけでは聞き逃してしまうボーカルや楽器の音があります。両耳にイヤホンを付けることで初めて音の全体像をつかむことが出来るのです。」チームリーダーのソブラルさんは今回の観測の意義を語っています。

2つの輝線で探る銀河の過去、宇宙の過去 図2

図2: 宇宙における星生成の歴史。横軸が宇宙誕生からの時間 (左端が現在)、縦軸が星生成活動の大きさの指標 (対数表示)。赤い四角が、2輝線の観測で得られたおよそ 90 億年前の星生成の様子。今回の星生成活動が過去 110 年に渡って減少傾向にあることが分かる。

本研究成果は、イギリスの学術誌 Monthly Notice of the Royal Astronomical Society に掲載されました (Sobral et al. 2012, "Star formation at z=1.47 from HiZELS: An Ha+[O II] double-blind study", MNRAS 420, 1926)。

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