観測成果

日本天文学会欧文研究報告「すばる望遠鏡特集号」各論文の概要

2011年4月7日

「約 80 億年前の星生成銀河の形態 ~ 現在の渦巻銀河につながる進化」

"MOIRCS Deep Survey. VII. NIR Morphologies of Star-Forming Galaxies at Redshift z ∼ 1," M. Konishi, et al., PASJ 63, pp.S363-S377 (2011)

  今からおよそ 80 億年前 (赤方偏移で約1) という時代は、今よりも 10 倍近く活発だった宇宙の星生成活動が衰え始める頃に相当します。その頃の星生成の担い手は塵 (ダスト) に富み赤外線で明るく輝く銀河 (高光度赤外線銀河) だったことが赤外線観測衛星による研究から知られています。そしてこれらの銀河は、その姿・形や星生成の要因に関して、現在の宇宙に見られる高光度赤外線銀河よりもむしろ天の川銀河のような「ごく普通の」銀河に似た特徴を持つという報告が近年相次いでいます。

  そこで東京大学の小西さんらは、当時の高光度赤外線銀河が天の川銀河などの先祖かもしれない、という点に注目し、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線多天体撮像分光装置 MOIRCS を用いてこの時代にある約 140 個の銀河の構造を調べました。近赤外線は塵に対して透過力があるため、可視光では見ることのできない構造や年老いた星の分布などを調べることが出来ます。観測の結果、調べた銀河の9割以上は、その骨格構造が天の川銀河などによく似ているが、大きさでは 1/3 ほどであることがわかりました (図1)。

  これにより、80 億年前に宇宙の星生成を代表していた高光度赤外線銀河が現在の天の川銀河のような銀河に成長していくというシナリオのなかで、赤外線で見られる銀河の骨格は当時まさに成長の途上にあったことが裏付けられました。今後はより細かく銀河の構造を調べるとともに、星の材料であるガスの量や分布を時代毎に追っていき、銀河進化のシナリオを固めていくことが重要であり、すばる望遠鏡だけでなく観測が始まりつつある電波干渉計 ALMA 等の活躍が期待されています。


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図1: 80 億光年先 (赤方偏移約1) にある銀河の例。一辺は約 13 万光年に相当する。左はすばる望遠鏡による近赤外線で、右はそこから滑らかな成分を差し引いた残り。この銀河に渦巻き構造があるのが分かる。




「すばる望遠鏡/MOIRCS による近赤外線深宇宙探査」

"MOIRCS Deep Survey. IX. Deep Near-Infrared Imaging Data and Source Catalog," M. Kajisawa, et al., PASJ 63, pp.S379-S401 (2011)

  120 億年前から 80 億年前 (赤方偏移にして4~1) の時代に、宇宙の中で非常に活発に星が生成され、急速に星の量が増えたことが近年の観測により分かってきています。近赤外線波長域の観測は、これらの時代の銀河がどのくらいの量の星からできているか、またその星々はどのような年齢分布をしているか、を調べる上で非常に重要です。特に、個々の銀河がどのように星を増やして成長したのかを明らかにするためには、近赤外線で非常に暗い天体まで観測することが必要不可欠です。

  すばる望遠鏡/MOIRCS による近赤外線観測は、その大きな集光力、視野の広さ、高い空間解像度によって、これらの重要な時代の銀河探査の非常に強力な手段となっています。そこで愛媛大学の鍛冶澤さんらは MOIRCS を使って、GOODS-North 領域と呼ばれる、世界中のいろいろな望遠鏡によって観測されてきた天域を 20 晩以上かけて撮像観測しました。その結果、約 100 平方分の広さに渡って非常に深い近赤外線データが得られ(図2)、特に Ks バンド (波長 2.2 マイクロメートル帯) においては現時点で世界で最も暗い天体を検出することに成功しました。

  これらのデータは、銀河の成長過程を解明するために赤方偏移1~4の時代の非常に規模の小さな銀河から大きな銀河まで詳しく調べることに加えて、宇宙が誕生してから 10 億年以内の初期宇宙における銀河を探したり、Ⅹ線や電波など他の波長で発見された天体の正体を明らかにする上でも重要な役割を果たすと期待されます。この論文では観測とデータ解析の詳細を報告しており、このデータを用いて銀河進化に関する論文 (Kajisawa et al, Konishi et al.) の研究が行われました。


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図2: MOIRCS による GOODS-North 領域 (おおぐま座の方向、7分角 x 15分角) の近赤外線画像 (JHKs の3バンドによる疑似カラー)




「銀河における少子高齢化はいつどこで始まったのか?」

"MOIRCS Deep Survey. X. Evolution of Quiescent Galaxies as a Function of Stellar Mass at 0.5 < z < 2.5," M. Kajisawa, et al., PASJ 63, pp.S403-S414 (2011)

  銀河は数百万個の星からなる比較的小さなものから数千億個の星からなる大きなものまで様々な規模を持つ星の集団です。現在の宇宙では、非常に規模の大きな銀河では新しく星が生まれることは稀で、星の高齢化が進んでいるのに対して、小さな銀河では活発に新たな星が生まれていることが多く、若い星の割合が比較的高いことが知られています。このような銀河の規模 (質量) によって、星の年齢分布が異なってくるのはいつからなのか、またなぜそうなったのかという問題は、銀河が宇宙の歴史の中でどのように星を作り、成長して現在の姿になったかを解明する上で重要なテーマの一つです。

  この謎に迫るために、愛媛大学の鍛冶澤さんらは遠くの銀河を観測することで、星が新たに生まれなくなり星の高齢化が始まっている銀河と、星が生まれ続けている銀河が、それぞれどのくらいの数宇宙に存在していたのかを昔の時代に遡って調べることにしました。すばる望遠鏡/MOIRCS を使って長時間に渡って観測することにより、非常に暗い、遠方の質量の小さな銀河まで検出することに成功しました。

  その結果、110 億年前から 70 億年前の間に、星が生まれなくなった銀河の数が 10 倍近く増加したこと、特に大質量の銀河において星が生まれなくなった銀河の割合が急速に増えたことが分かりました (図3)。この 110 億年前から 70 億年前の時代は宇宙全体で急速に星が増えた時期であったことがこれまでの研究から分かってきています。今回の観測結果は、この時代に質量が大きくなった銀河ほど新たに星が生まれなくなり、星の高齢化が始まったことを示唆しています。なぜこの時代に質量の大きな銀河ほど星を新たに生み出さなくなってしまったのかということを解明するには、今後のより詳細な観測が必要になりそうです。


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図3: 各時代で、どれくらいの質量の銀河がどれくらいの個数密度で 存在していたかを銀河全体、星が生まれなくなった銀河、活発に星が生まれている銀河についてそれぞれ調べた結果。110 億年前から 70 億年前の間に、活発に星が生まれている銀河の数が3倍程度増えたのに比べて、星が生まれなくなった銀河の数は 10 倍程度増加している。特に質量の大きな、1011 (= 1000 億) 太陽質量以上の銀河において、星が生まれなくなった銀河の割合が急速に高くなっていったことが見てとれる。




「電離水素ガス輝線でさぐる 105 億年前 (赤方偏移 2.2) の銀河の星生成活動」

"Cosmic Star-Formation Activity at z = 2.2 Probed by Hα Emission-Line Galaxies," K. Tadaki, et al., PASJ 63, pp.S437-S446 (2011)

  今からおよそ 80-100 億年前の宇宙では、 銀河の星生成活動が非常に活発であり、現在の宇宙に存在する銀河内の星の大半はこの時代に生成されたと考えられ、銀河の進化を調べる上で重要な時代です。星生成銀河内の電離ガスからは水素や酸素の輝線が放射されており、どのくらい遠方にあるかに応じてこれらの輝線はいろいろな波長に現れます。赤方偏移したこれらの輝線を透過波長域の狭いフィルターを用いて観測することによって、特定の時代の星生成銀河のみを取り出すことができます。

  銀河の進化は時間だけでなく周囲の環境にもよることが知られています。そこで東京大学の但木さんらの研究グループは、様々な時代と環境における星形成銀河の探査 (MAHALO-Subaru プロジェクト) を推進しています。銀河が密集している銀河団領域から、銀河のまばらな領域まで、の様々な環境を網羅している点がこのプロジェクトの特徴です。

  この論文では、すばる望遠鏡/MOIRCS を用いて、銀河のまばらな領域 (GOODS-N 領域) について、105 億年前 (赤方偏移 2.2) の銀河からの電離水素輝線を放つ銀河の探査を行った結果を報告しています。これにより 11 個の星生成銀河が発見され、銀河が密集している環境である銀河団・原始銀河団領域に比べると、銀河のまばらな領域では銀河の星生成活動は比較的ゆるやかにしか変化していないことがわかりました。現在の宇宙では、活発に星生成を行っている銀河は銀河のまばらな領域にみられ、銀河団のような高密度環境では星形成が活発な銀河はほとんどみられません。しかし、およそ 100-110 億年前の宇宙では、その傾向が逆転して、高密度環境のほうが星生成が活発だった様子が見えてきました。


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図4: 銀河のおかれた環境別に示した 銀河の星形成活動の変遷。銀河の密集している銀河団領域では星生成活動が時間ともに急速に低下しているのに対し、銀河のまばらな領域 (低密度領域) ではその変化が小さい。今回観測されたのは GOODS-N 領域 (緑の丸印)。




「近赤外線分光観測でさぐる明るい活動銀河核と爆発的星生成」

"Infrared 3-4μm Spectroscopy of Nearby PG QSOs and AGN-Nuclear Starburst Connections in High-luminosity AGN Populations," M. Imanishi, et al., PASJ 63, pp.S447-S456 (2011)

  天の川銀河の中央には、「バルジ」とよばれる、星が球状に集まった領域があります。このようなバルジ成分をもつ銀河には、その中心に超巨大ブラックホールが存在していることが最近の観測からわかってきており、しかも大きなバルジ成分をもつものほど中心のブラックホールの質量も大きいことが知られています。つまり、銀河と超巨大ブラックホールは互いに影響しあいながら進化してきたとみられます。

  この超巨大ブラックホールが成長しつつある段階にあるのが活動銀河中心核 (AGN) です。これは中心の超巨大ブラックホールに物質が落ち込む際に解放される重力エネルギーがもとになって明るく輝いている天体です。このような天体における星生成の様子を調べることは、超巨大ブラックホールと銀河がどのように共進化してきたかを解明する上で極めて重要です。

  これまでの観測では、比較的光度の高くない AGN については、銀河中心核での星形成が活発なものほど AGN も明るい (超巨大ブラックホールに激しく物質が落ち込んでいる) ことが確認されていました。しかしこの関係が光度の高いAGNについても成り立つのかは不明でした。

  これを調べるために、国立天文台の今西さんらはすばる望遠鏡の近赤外線分光撮像装置 IRCS を用いて、代表的な高光度 AGN である「PG QSO」30天体について、波長 3-4 マイクロメートル帯の分光観測を行いました。この波長には芳香族炭化水素 (PAH) の放つ輝線があります。この PAH 輝線は、星生成領域からは放射されますが、AGN では強いⅩ線放射によって PAH 分子自身が破壊されるために観測されないことが知られています。このため、星生成活動と AGN の活動を区別して調べることができます。

  観測の結果、高光度の AGN でも銀河中心核での星生成は充分活発であり、AGN と中心核星生成の光度の相関は広い光度範囲で成り立つことが明らかになりました。これはいくつかある理論予測のうち、中心核での星生成によって超巨大ブラックホールへの物質の落ち込みが促進されるという説を支持するもので、超巨大ブラックホールと銀河の共進化を理解する上で重要な結果です。


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図5: AGN の光度 (横軸) と中心核星生成の光度 (縦軸) の関係。星印が今回観測した明るい AGN についての結果。白丸はこれまでに観測されていた低-中光度 AGN。広い光度範囲に渡って、AGN と中心核星生成の光度の間にはよい相関があることが観測的に確かめられた。




「クエーサーからのガスの噴出現象を探る」

"Outflow in Overlooked Luminous Quasar: Subaru Observations of AKARI J1757+5907," K. Aoki, et al., PASJ 63, pp.S457-S467 (2011)

  ここ 10 年ほどの研究で、重く明るい銀河の中には特に重い超巨大ブラックホールがあり、軽い銀河の中心には相応の軽いブラックホールしかないという対応関係が明らかになってきました。しかし、星の集団である銀河は数万光年の広がりがあるのに対し、中心のブラックホールは光日の大きさ (1光年の数百分の1) しかありません。これほどスケールの違うものが、どうやって相手の大きさや重さを知り、相手の大きさに見合った大きさに自分を調整しているのでしょうか?「銀河とブラックホールの共進化」は現代天文学の一大テーマとなっています。

  銀河とブラックホールをお互いに関係づけ、制御している仕組みの一つとして、銀河からのガスの噴出現象が注目されています。特に活動的なブラックホールを持つ銀河ではガスの噴出現象がしばしば観測されています。その説明として、銀河中心のブラックホールが活動している間にその周辺からガスを噴出し、銀河の中の星を作る活動を低下させているのではないかという仮説が立てられています。

  活動的なブラックホールを持つ銀河としてはクエーサーという天体があり、このようなガスの噴出現象が 40 年近く前から観測されてきたのですが、どれだけのガスの量が、どのくらいの期間流れ出しているのか、ガスは銀河のどこにあるのか、基本的なことがまだまだ未解明です。研究の難しさのひとつは、本来はたいへん明るい天体であるクエーサーも、非常に遠方にあるので見かけ上暗く、8-10 メートル級望遠鏡でも調べるのに時間がかかることです。しかし今回、国立天文台の青木さんらは日本の赤外線天文衛星「あかり」の全天サーベイによって新たに発見されたとても明るいクエーサーを調べることでその困難を克服することができました。この新発見のクエーサーはこれまで観測されていたクエーサーよりおよそ 10 倍明るいものです。

  青木さんらがすばる望遠鏡に搭載された高分散分光器 HDS を用いて行った高分散分光観測により、噴出されたガスは、銀河の中心から1万光年も離れたところにあることが判明しました。これまではガスの噴出は銀河の中心のごく近くで起こると考えられていましたが、それとは大きく異なる結果です。また、いくつもの速度の異なるガスにより構成されていることも明らかになり、ガスの噴出が何回かに分かれて起こったのではないかと青木さんらは推測しています。2011年4月に予定されている観測でさらに別の速度成分の観測をおこない、このクエーサーのガス噴出現象の全貌を明らかにしたいと青木さんらは考えています。


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図6: 今回の観測で得られたクエーサーのスペクトル (赤の線)。ここでは波長の違いは噴出するガスの速度の違いを意味する。従来の観測 (青) では分離できなかったさまざまな速度成分がはっきりと見分けられており、クエーサーの母銀河からのガスの噴出がいくつにも分かれて起こっていることがみてとれる。




「バーチャル天文台で「観測」された大質量ブラックホールの環境」

"Early Science Result from the Japanese Virtual Observatory: AGN and Galaxy Clustering at z = 0.3 to 3.0," Y. Shirasaki, et al., PASJ 63, pp.S469-S491 (2011)

  私たちが住む銀河系も含め、大部分の大型の銀河には太陽の百万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールがその中心に存在すると考えられています。そうした超大質量のブラックホール形成の説明の有力なモデルによれば、まず銀河同士の衝突・合体により星形成が活発に行われることで大質量星が多数誕生し、それらが重力崩壊することにより中質量ブラックホールが形成されます。そして、それら中質量ブラックホールが銀河中心部に落ち込み合体することで大質量ブラックホールが形成されると考えられています。したがって、銀河同士の衝突が起こりやすい銀河が密集した領域ではブラックホールが活発に成長していると考えられます。

  銀河中心の大質量ブラックホールへ物質が落ち込む際には強力な放射をともない、それは活動銀河中心核 (AGN) と呼ばれる天体として観測されます。AGN は赤方偏移2付近 (約 100 億年前の宇宙) で数密度が最大となることが分かっており、その時代に活発に大質量ブラックホールが形成されたことを示しています。

  そこで国立天文台の白崎さんらの研究グループは、この時代におけるブラックホールが実際に銀河が密集した場所において発生したのかを観測的に確かめることで、ブラックホール形成モデルの検証を行おうとを考えました。

  白崎さんらは、「バーチャル天文台」に収められたすばる望遠鏡の撮像データを大量に取得し詳細に解析することにより、2000 個にのぼる数多くの AGN の周辺における銀河数密度を求めることに成功しました。その結果、遠方の AGN ほど周辺の銀河数密度が高くなっていることが確認され、銀河同士の衝突・合体が起こりやすい環境に存在することが分かりました。

  バーチャル天文台は世界中の天文データアーカイブと接続し様々な望遠鏡により得られた観測データを簡単に取得することを可能にします。バーチャル天文台を利用することにより、大量のアーカイブデータの中から新たな天文学的知見が今後続々と生まれてくることが期待されています。


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図7: AGN のまわりの銀河の数密度。横軸は AGN からのみかけの距離 (単位は 100 万パーセク(約 300 万光年))で、AGN の近くでは銀河が群れている (数密度が高い) ことを示している。




「風に舞う塵の運命~銀河から吹き飛ばされた塵の行方」

"Spectropolarimetry of the Superwind Filaments of the Starburst Galaxy M 82: Kinematics of Dust Outflow," M. Yoshida, et al., PASJ 63, pp.S493-S503 (2011)

  宇宙に存在する様々な銀河は、その一生の間に数々の大事件に巻き込まれると考えられています。そうした大事件の一つが、爆発的星生成 (スターバースト) と呼ばれる現象です。これは、銀河と銀河が衝突したり、小さな銀河が大きな銀河に飲み込まれるときに銀河の中心付近で突然、ものすごい勢いで星が作られ始める現象です。大量に作られた星の中には強い紫外線を発したり、その生涯の終りに爆発してしまう (超新星爆発) ような重い星もたくさんあります。そうした星々からの強力な光や巨大な爆発は、銀河の中のガスを高速 (毎秒 1000km) で銀河の外に吹き飛ばしてしまいます。これを超銀河風 (スーパーウィンド) と言います。

  超銀河風が吹き始めると、銀河の外に大量のガスや星間塵が流れ出して、銀河の中はあっという間にガス欠となってしまいます。すると銀河には星を作る材料が無くなってしまい、急に星生成がストップするだろうと考えられています。一方、銀河の外に逃げたガスや塵は、やがて銀河の重力で引き寄せられて再び銀河に降り積もって、次なる星生成を引き起こすとも考えられています。今のところ、こうしたプロセスがどのように起こるのかは、よく解明されていません。ですが、こうした活動が銀河内での星生成に大きな影響を与えることは確かで、現在、さかんに研究されています。

  今回、広島大学の吉田さんらは、この超銀河風に巻き込まれた星間塵 (ダスト) の運命を探るために、すばる望遠鏡に搭載された微光天体分光撮像装置 FOCAS を用いて、近傍の爆発的星生成銀河である M82 の超銀河風を「偏光分光観測」しました。星間塵は星の光を反射して光ります。このとき、反射された光には偏りが生じます。これが「偏光」です。ですから偏光を測れば、星間塵がどこにあるのかが分かります。さらに偏光された光は、星間塵の動きを反映して偏光していない光よりわずかに波長がずれます。これを分光観測によって丁寧に測ってやれば、星間塵の速度が分かります。

  こうして、吉田さんらは M82 の超銀河風に巻き込まれた星間塵の運動を明らかにしました。吉田さんらの測定結果によると、星間塵は銀河から離れるに従って徐々に遅くなり、銀河円盤からおおよそ 3500 光年のところでほとんど止まってしまうことが分かりました。超銀河風内の星間塵の運動を測ったのは、この研究が世界で初めてです。この結果によれば、M82 銀河の星間塵は、やがて重力で引き寄せられて銀河円盤に落ちていくと考えられます。つまり、塵は吹き飛ばされず、また新たな星生成の種となるのです。しかし、吉田さんらのデータは、一番外側の方で星間塵の速度が増しているような兆候も示しています。もしこの傾向がもっと外で続いているならば、何らかの加速機構によって星間塵が再び加速され、M82 銀河から永遠に離れていってしまうかもしれません。銀河から吹き飛ばされた塵の行方を知るには、もっと銀河の外側まで観測をする必要があるでしょう。
  風に舞う塵の運命。再び銀河に戻ってこられるのか、それとも永遠におさらばなのか。その答えはまだ風の中のようです。


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図8: (左) 爆発的星生成銀河 M82 と、本研究で観測した領域。超銀河風による電離水素ガス (Hα) が赤く写っている。(右) 超銀河風中に巻き上げられた星間塵の速度場。データ点の番号は左図の観測領域に対応している。




「矮小銀河の星の重元素の起源解明に一石」

"Enrichment of Heavy Elements in the Red Giant S 15-19 in the Sextans Dwarf Spheroidal Galaxy," S. Honda, et al., PASJ 63, pp.S523-S529 (2011)

  銀河系 (天の川銀河) のまわりには、星の数が百万個程度あるいはそれ以下の小さな銀河 (矮小銀河) がいくつもあります。もともと銀河系はこういった小さな銀河が合体することにより誕生してきたと考えられており、矮小銀河はその生き残りではないかとみられていますが、そこに含まれる星の組成を調べてみると、意外にも銀河系に現在みられる星とはかなり違いがあることがわかってきました。しかも星の組成は矮小銀河ごとに違いがあるようです。これは銀河系形成、あるいは矮小銀河の形成と進化を理解するうえで重要な問題であり、矮小銀河の星を丹念に調べる研究が世界的にも活発に進められています。

  京都大学の本田さんらはそのなかで特に、鉄よりも重い元素に注目しています。銀河系の形成初期に誕生したと思われる金属量の極端に少ない星 (鉄の組成が太陽の約 1000 分の1以下) では、鉄より重い元素の含有量は一般に少なめですが、なかには飛び抜けて多くの重元素を含んでいる星もみられます。こういった星は、その誕生の直前に近くで爆発的な重元素合成が起こったものと推測されています。一方矮小銀河については、現在までに詳しく調べられている金属量の極端に少ない星約 15 天体のなかでは、本田さんらのグループが以前に見つけた1天体 (ろくぶんぎ座矮小銀河の S15-19 という星) にのみ重元素の過剰が見つかっています。

  この天体をすばる望遠鏡/HDS で1晩かけて観測し、組成を丁寧に調べたところ、予想に反してこの星の重元素は爆発的な重元素合成によるものではなく、太陽程度の質量の星が進化を遂げた段階で起こす、ゆっくりとした重元素合成によるものであることがわかりました。このプロセスで重元素が豊富になった金属量の低い星は銀河系においても見つかっており、矮小銀河においてもこういう星が存在することが明確になったのは重要な一歩ですが、一方で、爆発的重元素合成の影響を強く受けた金属量の低い星が矮小銀河には今のところ一つも見つかっていないことになります。この点で矮小銀河の星は銀河系の星と異なるのかどうか、今後さらに大規模な調査が待たれます。


    
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図9: 観測されたろくぶんぎ座矮小銀河の星 S15-19 のスペクトルの例。バリウムという重元素が多いことが分かっていたこの星について、爆発的な合成で多量に作られることが知られているユーロピウム (Eu) の測定を試みたが検出されず、この星の重元素の起源はむしろ星の中でのゆっくりとした重元素合成によるものであることが判明した。




「近赤外 1.046 マイクロメートル線を用いた金属欠乏星における硫黄の化学組成解析」

"Exploring the [S/Fe] Behavior of Metal-Poor Stars with the S I 1.046μm Lines," Y. Takeda and M. Takada-Hidai, PASJ 63, pp.S537-S546 (2011)

  私たちの身の周りにはさまざまな元素がありますが、それが宇宙のなかでどのようにつくられてきたのか解明することは、宇宙の歴史を理解する上での重要な課題です。そのなかで、硫黄 (S) は寿命の非常に短い大質量の星において合成される元素のひとつで、銀河系のなかで古く金属量の少ない星においても観測されます。

  これが同じく大質量星でつくられる酸素やマグネシウムの組成と同じような組成の傾向を示すのか調べられてきましたが、相反する観測結果が得られており、ここ十年来論争が起こっています。すなわち、一方は金属量が少ない星ほど硫黄/鉄組成比は増加するというものであり、一方は金属量の少ない星では硫黄/鉄組成比がさほど高くない値で一定値を示すというものです (図 10)。

  これら2つの調査では、実は硫黄組成の測定に異なるスペクトル線を用いており、それが結果の違いを生んだ可能性があります。そこで国立天文台の竹田さんと東海大学の比田井さんは、これまでの研究で用いられてこなかった近赤外線領域の硫黄のスペクトル線 (波長約 1.046 マイクロメートル)を用いて独立な測定を行いました。観測にはすばる望遠鏡/IRCS および 188 素子補償光学系 AO188 を用い、銀河系円盤とハロー構造に属する 33 天体のスペクトルデータを得ました。

  このデータから測定してみると、金属量が太陽の約 300 分の1までの星の硫黄/鉄組成比は太陽組成の約2倍で一定となっているのに対し、より金属量の低い星ではずっと高い値となっている (太陽組成の5倍以上) という結果が得られました。つまり、これまで言われていた二種の傾向を折衷したようなものといえます。太陽組成の2倍程度という値は、大質量星が超新星爆発を起こす際に放出される物質に期待される量と概ね一致するものといえますが、金属量の特に低い星に見られる高い硫黄組成については、何らかの別の説明が必要となります。


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図 10: 近赤外線領域 (波長約 1.046 マイクロメートル) の硫黄スペクトル線を用いて得られた硫黄/鉄組成比 (太陽を基準とした硫黄対鉄の対数組成比) と金属量 (太陽を基準とした鉄/水素の対数組成比) の関係。印の違いは観測した星のタイプの違いで、青丸 (塗りつぶし) は表面重力の高い矮星で、緑丸 (白抜き) は表面重力の低い巨星。




「近赤外のヘリウム線が明らかにした古い金属欠乏星における彩層活動の存在」

"Chromospheres in Metal-Poor Stars Evidenced from the He I 10830Å Line," Y. Takeda and M. Takada-Hidai, PASJ 63, pp.S547-S554 (2011)

  太陽の表面 (光球) の温度は約 6000 度であることが知られていますが、実際には大気には厚みがあり、高度が上がるにつれて徐々に温度が低下し、4000~5000 度程度まで下がります。しかしそこからは逆に高度が上がるほど温度が上がり、1万度を超える薄い層 (彩層) に至ります (そのさらに上層に 100 万度を超えるコロナが存在します)。

  この温度上昇には何らかのエネルギーが必要ですが、最近ではこれは磁気活動領域の磁場エネルギーによるものであるいうのが定説になっています。磁気活動は、星の自転による磁力線の増幅によるもの (ダイナモ効果) とされており、実際、年齢の高い (自転の減速した) 星では彩層活動が弱まる傾向がみられます。しかし、このことが確認されているのはせいぜい年齢が数億年から太陽年齢 (46 億年)程度まででした。そこで国立天文台の竹田さんと東海大学の比田井さんは、もっと古い、年齢が百億年程度の星の彩層活動を調査しました。現在の理解ではこれらの非常に古い星では自転が遅くなり、ダイナモ効果による磁場も発生せずに彩層活動も無いと予測されます。

  すばる望遠鏡/IRCS および AO188 を用いた観測により、33 個の銀河系円盤とハロー構造の星について近赤外領域のスペクトルデータが得られました。この波長域に含まれる 1.083 マイクロメートル線のヘリウムスペクトル線 (星の大気中のヘリウムによってつくられる吸収線) は、1万度以上の温度にならないと現れない高励起の線なので、彩層活動を調べるのによい指標となります。竹田さんらがこの吸収線の強度を調べたところ、金属量が太陽の約 10 分の1以下の星でもこのヘリウムの線ははっきり見えていて、ほぼ一定の強度を示すことがわかりました (図 11)。つまり金属量にかかわらず一定の彩層活動の徴候が見られるという意外な結果が得られました。

  この結果は、これらの星では自転によるダイナモ機構によらずに彩層が維持され存在していることを示しており、磁場を介しない機構で維持される彩層活動と、星の自転によるダイナモ機構による彩層活動の二種類があることを示唆しています。


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図 11: ヘリウム吸収線 (1.083 マイクロメートル) の強さ (等価幅:mÅ単位) と金属量 (太陽を基準とした鉄/水素の対数組成比) の関係。印の違いは星のタイプの違いに対応し、青丸 (塗りつぶし) は表面重力の高い矮星で、緑丸 (白抜き) は表面重力の低い巨星。赤丸は太陽。金属量の低い星でも一定強度のヘリウム吸収線がみられ、これは年齢の高い星でも彩層活動が維持されていることを意味している。




「小惑星帯の中に微小な高速自転小惑星を多数発見」

"Subaru Lightcurve Observations of Sub-km-Sized Main-Belt Asteroids," B. Dermawan, et al., PASJ 63, pp.S555-S576 (2011)

"Sphericity Preference in Shapes of Sub-km-Sized Fast-Rotating Main-Belt Asteroids," T. Nakamura, et al., PASJ 63, pp.S577-S584 (2011)

  小惑星は、太陽系が形成された頃の状態を保持している始原的な天体として、近年惑星科学の中では重要な研究対象になっています。また、日本の平山清次が 1918 年に小惑星の「族」を発見して以来、小惑星帯全体の進化に、小惑星同士の衝突が大きな役割をしていることがわかってきました。特に、直径1キロメートル程度以下の微小小惑星の統計的な性質が重要ですが、小惑星帯の中の微小小惑星は非常に暗いために、従来の望遠鏡では観測することができませんでした。

  ところが、すばる望遠鏡に搭載された主焦点カメラ Suprime-Cam が利用できるようになったため、インドネシア・バンドン工科大学の Dermawan さん、帝京平成大学の中村さんらはそれら微小小惑星の全体的特性を明らかにする探査を計画しました。その結果、全く未知の世界だった微小小惑星の、サイズ分布や小惑星帯の中での空間的な分布、分類型と呼ばれる小惑星表面の微妙な色の違いなどを、初めて明らかにすることが出来ました。

  この2論文では、探査の一環として行われた微小小惑星の自転と形状について報告しています。観測に用いた主焦点カメラの広い視野 (月の大きさと同程度) の中には約 130 個の新小惑星が写りましたが、その内 68 個の微小小惑星について、1晩にわたっての明るさの変化 (変光曲線) を描くことができました。この曲線を解析すると、各小惑星の自転周期と形状を求めることができます。通常、小惑星の変光観測では、1晩に1個の小惑星のデータしか得られないので、これは前例のない画期的な観測効率です。

  小惑星は、長い年月にわたる衝突の結果、直径約1キロメートル以上のものは衝突破片が自己重力でゆるく集まった「破片集積体」、1キロメートル以下のものは単体の岩石と従来は考えられてきました。破片集積体の自転周期は、遠心力のため 2.2 時間より短くはなり得ないことが理論的に示されており、実際、観測でも 2.2 時間より短い周期の大きな小惑星は存在しません(図 12)。

  一方、図で分かるように、 Dermawan さん、中村さんらの観測以前には、2.2 時間より速い周期の短い小惑星は、1キロメートルよりずっと小さい地球接近小惑星しか知られておらず、小惑星帯では直径 0.1~1キロメートルのサイズ領域が空白地帯になっていました。ところが今回の観測で、この部分がすっかり小惑星で満たされたのです。それらの中で、周期が 2.2 時間より短い「高速自転小惑星」が 68 個のうち約 50 %も占めていました。

  しかも、これら高速自転小惑星の大部分は変光の範囲が非常に狭い、つまり形が球に近かったのです。その球形の度合いは、大きな小惑星や地球接近小惑星の形と比べても際立っていました。この事実は、直径 0.1~1キロメートルの微小小惑星はひとかたまりの岩石ではなく、破片集積体であることを示しています。Dermawan さん、中村さんらの発見でもう1つ重要な点は、微小小惑星の世界は、従来の理論が予測するような、破片集積体か単体の岩石かという単純な2分法はもはや成り立たず、両者の中間的な状態の小惑星が多数存在するのが分ったことです。セメントの中の砂利がコンクリート全体の強度を高めるのと同じように、小惑星のサイズが小さくなるに従って含まれる岩石的な破片の割合と大きさとが増加し、ほぼ連続的に単体の岩石小惑星につながっていくと考えられます。これら研究は、直径 1~0.1 キロメートルの微小小惑星の内部構造に関する手がかりを世界で初めて観測的に与えました。


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図 12: 小惑星の直径と自転周期の関係。○: 小惑星帯小惑星、□: 地球接近小惑星、▲: すばるで検出された小惑星。横軸は直径 (km)、縦軸が自転周期 (時間) を表わす。




「すばる望遠鏡/FOCAS および MOIRCS 用グリズム分光素子の開発」

"Cryogenic Volume-Phase Holographic Grisms for MOIRCS," N. Ebizuka, et al., PASJ 63, pp.S605-S612 (2011)

"Grisms Developed for FOCAS," N. Ebizuka, et al., PASJ 63, pp.S613-S622 (2011)

  天文学では、望遠鏡で集められた光をさまざまな観測装置によって分光分析することにより、天体の性質や運動を調べています。分光分析においては、光を波長にわける光学素子の性能が重要です。最もよく知られているのはプリズムですが、より細かく波長にわける素子として回折格子もよく用いられます。

  このプリズムと透過型回折格子を組み合わせた素子をグリズムといいます。グリズムを通すことにより、観測したい波長の光を希望する方向に取り出すことができます (直進させることもできます)。望遠鏡に取り付けられるカメラでは、通常、入ってきた光をレンズや鏡を用いて一度平行な光にしたうえでフィルタなどを通し、再度結像させて画像を得ます。この平行にした光をグリズムを通すことにより、撮像用のカメラを分光器に切り替えることができるのです。天文観測用の検出器は一般に高価で、開発にも制御にも技術を要しますので、一つの装置・検出器で撮像観測と分光観測の両方を行えるのは大きな利点となります。

  すばる望遠鏡を含め、8-10メートル級の大望遠鏡での観測にむけて、さまざまな分光撮像観測装置の開発が行われました。大きな望遠鏡には、一般に大きな観測装置が必要となり、グリズムに対しても大型化と大きな分散 (波長によって光を分ける度合い) が求められるようになりました。名古屋大学の海老塚さんらによる論文「Grisms Developed for FOCAS」では、すばる望遠鏡の可視光微光天体分光撮像観測装置 (FOCAS) 用に開発した有効径 110mm×106mm の5種類の表面刻線型グリズムおよび、8種類の VPH グリズムの仕様と、実験室および望遠鏡による性能評価を報告しています。表面刻線型グリズムは比較的低い分散で一度に広い波長帯域を、VPH グリズムは特定の波長範囲を高い効率で中〜高分散の分光観測ができます。エシェルタイプ・表面刻線型グリズムは高次回折光を利用するグリズムであり、垂直分散素子としての直視プリズムと組み合わせることによって、一度に広い波長範囲を比較的高い分散で分光観測ができます。また、これらのグリズムによる観測例として、最遠方銀河の距離測定超新星爆発の「こだま」、等を紹介しています。

  海老塚さんらによるもう一つの論文「Cryogenic Volume-Phase Holographic Grisms for MOIRCS」では、すばる望遠鏡/MOIRCS 用に開発された、セレン化亜鉛 (ZnSe) プリズムを組み合わせた有効径 70mm×70mm の4種類の VPH グリズムの仕様と冷却試験の結果、さらに実験室および望遠鏡に搭載した場合の光学的な性能評価を報告しています。MOIRCS 用の VPH グリズムは分散が大きくて回折効率が高い VPH 回折格子と屈折率が大きい ZnSe プリズム (波長 1.5 マイクロメートルにおいて屈折率が 2.46) を組み合わせることによって、表面刻線型グリズムの5倍程度の高い分散と最大約 80 %の高い効率を達成することができます。この装置を用いて行われた観測例として、活発に星生成を行っている遠方の銀河の分光観測を紹介しています。


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図 13: FOCAS 用各種グリズム。右から低分散 (格子周期: 150 本/mm) と中分散青用 (同: 300 本/mm)、エシェルタイプ (同: 175本/mm) の各種表面刻線型グリズム、高分散 (同: 665本/mm) と超高分散 (同: 1320 本/mm、ZnSe プリズム) の VPH グリズム。




「すばる観測現場でのデータ解析システム ー 観測効率の改善に貢献」

"First On-Site Data Analysis System for Subaru/Suprime-Cam," H. Furusawa, et al., PASJ 63, pp.S585-S603 (2011)

  すばる望遠鏡の主焦点カメラでは数多くの最前線の観測が行われ、重要な科学的成果が成し遂げられています。限られた貴重な観測時間の中で良い観測データを得るためには、1回のシャッター開閉で 190 メガバイトに及ぶ大量の画像データの善し悪しを即座に評価し、その結果を観測に反映する高度な判断が必要です。

  しかしこれまでの観測では、この作業はほぼ観測者や観測所スタッフの手により行われてきました。つまり、観測者の知識と経験に多分に委ねられていたのです。観測者は刻一刻と進行する観測の現場での実行判断に責任を持っていますので、注意深く行わなければならないデータの評価作業を観測と並行して行うことはたいへんな重労働であり、これまでの観測の生産性には限界がありました。

  国立天文台の古澤さんらによって開発された「オンサイトデータ解析システム」は、すばる望遠鏡の観測現場でのデータ評価作業を支援する機能を観測者に提供することで、このような状況を改善する初めての試みです。2010 年3月から解析システムの運用を始め、観測所スタッフや一般観測者の観測遂行を支援しています。

  このシステムは、シャッターの開閉ごとにカメラから得られる画像データを自動的に簡易解析し、シーイング (星像のシャープさ)、背景光の明るさ、等級原点など、撮像データとしての基本的な性質を調べます。その結果はウェブブラウザに表示され、観測者がデータ特性の時系列変化を監視することができます。また、シーイングや積分時間の長さなどの条件を指定し、それを満たす画像データだけを集めて足し合わせるといった、より詳細な解析も行えるように作られています。これらの機能によって、観測中にそれまでに取得したデータの全体的な達成度を観測者が把握したり、観測後のデータ整理をたいへん効率的に行うことが出来ます。

  このシステムは、観測の進行に従ってデータを高速に調べるための分散処理の仕組みや、データ評価作業の履歴と結果を保存し利用するためのデータベースによって実現されています。毎晩の共同利用観測の支援はもちろんのこと、大規模な掃天観測のような長期にわたる観測プログラムでは、客観的なデータ評価をプログラム期間に渡って自動的に行い、均質で科学的意義の高い観測データを作り上げるために威力を発揮することが期待されています。


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図 14: オンサイトデータ解析システムによって測定された星像サイズ (シーイング) の時間変化。このようなデータ特性が自動的に測定され、観測中にモニタ画面に表示される。




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