観測成果

すばる、銀河からまっすぐにのびる謎の水素ガス雲を発見

2007年3月5日

 国立天文台と東京大学の研究者がすばる主焦点カメラを用いて行った研究により、我々からおよそ3億光年離れたかみのけ座銀河団に属する銀河 の一つ (D100) から、水素の電離ガスが細くまっすぐに伸びていることを発見しました。この電離水素ガス雲は約20万光年もの長さに渡って伸びており、我々の銀河系と大マゼラン星雲との距離に匹敵する長さになっています。また、その細さ (約6000光年) も大きな特徴で、このような細長い構造を持つ電離水素ガス雲が宇宙に存在することを本研究グループが世界に先駆けて発見しました。

 画像中央に見えている3つの銀河のうち、右下にある銀河 (D100) から右上の方向に伸びている構造 (赤色で表示) が今回発見されたガス雲です。かみのけ座銀河団は我々から約7000km/s の速度で遠ざかっているため、その赤方偏移で水素のHα輝線が検出できるような特殊なフィルターで観測する事により今回の発見が可能となりました。引き続き行なわれた微光天体分光撮像装置 (FOCAS) による分光観測により、このガス雲はD100とほぼ同じ後退速度を持つことも確かめられたため、ガス雲は確かにこの銀河に付随していると考えられます。

 銀河に付随する細く伸びた構造としては、活動銀河核から噴き出したジェットがよく知られています。しかし、今回の銀河は活動銀河核を持っておらず、通常ジェットに付随して観測されるX線や電波も検出されていません。このため、今回発見された構造は全く別のメカニズムでつくられたものと考えられます。

 D100 の特徴として、3億年ほど前 (注1) までは銀河全体で活発に星生成を行なっ ていたにも関わらず、現在は中央部分以外では星生成を止めてしまっていること が知られています。研究グループの八木雅文国立天文台主任研究員は、「これほど細くまっすぐな水素ガス雲がいかにつくられたのか、今のところよくわからないが、過去に起こった活発な星形成とその急な停止、銀河団内という特殊な環境が関係していると考えられる。Hα輝線を調べられるフィルターを用いて深い撮像を行うと、このような興味深い構造が他にも発見できるだろう」と話しています。

 本成果は、2007年4月20日付の Astrophysical Journal 誌に発表される予定です。


天 体 名: かみのけ座銀河団 D100 付近
使用望遠鏡: すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、主焦点
使用観測装置:Suprime-Cam (すばる主焦点カメラ)
フィルター:Hα線狭帯域 (671nm)、Bバンド (450nm)、 Rバンド (650nm)
観測日時:世界時2006年4月28日、5月3日 (分光観測は 2006年6月23日)
露出時間:37.5分 (Bバンド)、56分 (Rバンド)、246分 (Hαバンド)
視野:約5.1分角四方
画像の向き:北が右、東が上
位 置:赤経(J2000.0)=13時00分、赤緯(J2000.0)=+27度52分 (かみのけ座)


カラー合成:青(Bバンド)、緑(Rバンド)、赤(Hαバンド)、中央の3つの銀河の一つから右上に向かって電離水素ガスの構造(赤で表される)が細くまっすぐ伸びている。

中解像度 高解像度


同じ位置で HαバンドからRバンド画像を引き算したもの。黒い部分はHαの吸収、白い部分がHαの放射を示している。中央の3つの銀河が黒く見えるのは、星生成を終えて時間があまり経ってない (ポストスターバースト状態) ことを示している。

拡大画像


  • 注1:この銀河は地球から約3億光年離れているので、現在地球で観測されているのは約3億年前に銀河を発した光です。現在見えている姿では中央部以外の星生成は止まっていますが、2億5000千万年ほど前までは銀河全体で星生成が行われていたと考えられています。
 

 

 

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