観測成果

すばる、新しい形の円盤を発見 ~多波長赤外線でみる惑星誕生現場の姿~

2006年6月27日

 名古屋大学、東京大学、国立天文台/総研大、宇宙航空研究開発機構、神戸大学、茨城大学の研究者たちからなる2つのチームが、すばる望遠鏡を用いて HD 142527 と呼ばれる若い星を撮影し、奇妙な形の原始惑星系円盤を発見しました。近赤外線から中間赤外線にかけて4つの波長で観測を行い、この円盤の構造や温度が詳しく解明されたのです。新たに発見された円盤はバナナ状の弧が向かい合った形をしており、以前に報告したドーナツ型やうずまき状の円盤などと併せると、惑星誕生の場である原始惑星系円盤がさまざまな形をとりうることが明らかになってきました。全体の形ばかりでなく、HD 142527 では星のすぐ近くにも内側の円盤が存在し、外側の円盤との間に「すきま」があるという特徴も分かりました。このすきまで既に惑星が誕生した可能性もあります。円盤の一部から外側に円弧状にうすく伸びる「角」のようなものは、他の恒星との接近遭遇のような歴史を反映していると思われます。今後は原始惑星系円盤の普遍的な要素と多様性を切り分け、さらに、多様性を作り出す原因を調べる研究を進めていきたいと研究チームは張り切っています。

 「原始惑星系円盤」とは、惑星誕生の現場と考えられている、若い星を取りまく円盤のことです。円盤は、星が生まれ成長するのと同時に、自然に造られます (太陽のような星とその周りの物質の進化の模式図)。円盤の材料は、星と共通で、ガスやそのおよそ100分の1の量の塵です。この円盤の中で塵が成長して微惑星が形成され、微惑星どうしの合体衝突などによって惑星が誕生すると考えられています。つまり、惑星がどのように形成されるのかを理解するには、若い星の円盤を調べることが重要になります。そこで、年齢100万年ほどの若い星の周囲を調べる研究が、近年盛んに行われています。

  原始惑星系円盤の詳細構造を調べるうえで、もっとも強力な方法のひとつが、赤外線領域での撮像観測です。あるがままの姿を詳細にとらえる観測によって、実際に宇宙に存在する円盤の立体的な構造や温度などの物理的な環境を知ることができます。しかし強力であるのと同時に、実際には困難な方法でもあります。原始惑星系円盤は中心星に比べてたいへん暗く、またその大きさが小さいのです。そのため観測技術が発達した近年でさえ、撮像による観測例がなかなか増えないのが現状です。

  また、一つの波長で一度撮影しさえすれば円盤の性質が分かるというわけでもありません。近赤外線の観測では、中心星からの光が円盤表面の塵によって反射された光をとらえます。この波長の観測は、高い空間分解能で円盤の空間構造をより細かく、より暗い構造まで見ることができるものの、円盤の温度や密度の情報は得られません。一方、波長の長い中間赤外線での観測においては、同じ望遠鏡で観測した場合に空間分解能がやや落ちますが、星からの光であたためられた塵の熱放射を検出することができます。そのため、円盤の温度が分かるという利点があります。また、波長が長くなるほど中心星自身からの光が弱くなるため、星と円盤の相対的な明るさの差が縮まり、星のごく近傍まで円盤を観測しやすくなります。このように、さまざまな波長で観測を行ってはじめて、円盤の立体的構造が明らかになり、惑星形成の理解へとつなげることができるのです。

 このたび名古屋大学、国立天文台/総合研究大学院大学、神戸大学の研究者からなるグループは、近赤外線コロナグラフカメラ CIAO を使い、距離650光年にある HD 142527 と呼ばれる年齢約100万年の星を、1.65マイクロメートル (注1) と2.2マイクロメートルの2つの波長で観測し、この星の周りの円盤の姿をとらえることに初めて成功しました (図1)。大気中のゆらぎの影響を受ける地上からの観測では、反射光で光る小さな円盤の発見に至ることはたいへん珍しく、これまでにはわずかに2例しか見つかっていません。今回の発見は、すばる望遠鏡の優れた結像性能と、大気ゆらぎの影響を抑えて像をシャープにする補償光学装置 AO の効果によるものです。おかげで0.13秒角の空間分解能を達成しました(注2)。また、明るすぎる中心星を隠して観測できるコロナグラフの機能も、円盤の検出を成功に導きました。

図1:CIAOで観測された HD 142527 の円盤。波長1.65マイクロメートルでの画像。中心星はコロナグラフのマスクで隠して観測しているため、黒丸で表示している。右図は向かい合った円弧状の構造を示したもの。画像の上が北、左が東。 (拡大画像)


 さて円盤を見つけた以上に驚くべきことは、その構造です。半径約500天文単位 (注3) の円盤は、バナナ状の構造が2つ向き合った形をしており、さらに1本の腕構造が外側へ伸びています。ドーナツ型 (GG Tau) やうずまき型 (AB Aur) のような形状を今までに明らかにしてきましたが、HD 142527 のような円盤は、これまでに例がありません。今まで想定されてきたのっぺらぼうの円盤とは異なり、実際にはこれらのように円盤がさまざまな形を持ち得ることが確認されたのです。研究チームは、HD 142527 の特異な円盤の形状が、円盤の内側に別の天体が存在し、それが重力的に円盤に影響を及ぼしていることが原因ではないかと解釈しています。さらに、外側に伸びる腕構造は、円盤の外側を別の星が通過し、円盤の物質がその星の重力にひっぱられたために作られたのだろうと推測しています。単独に生まれた太陽系よりも複雑な構造になりますが、HD 142527 の円盤の成因や性質の理解は、宇宙に数多くある多重星系における惑星形成過程の解明にもつながることを期待しています。

 この近赤外線観測での発見のすぐ後、東京大学、宇宙航空研究開発機構、国立天文台/総合研究大学院大学、茨城大学の研究者からなるグループは、中間赤外線カメラ COMICS を用いて HD 142527 を観測し、波長18.8、および24.5マイクロメートルでも円盤を空間的に分解することに成功しました (図2)。それぞれ0.5秒角、0.6秒角の空間分解能を達成したこれらの観測でも、この原始惑星系円盤が半径数100天文単位にわたってひろがっていることが確認されました。中間赤外線観測でも、これまでにも多くの円盤の撮像が試みられてきましたが、ここまで顕著にひろがった円盤が検出されたのは初めてのことです。この広がりは円盤の特異な形状にも起因しています。この空間分解の成功により、円盤の中で熱放射をしている塵の大きさや温度が導き出されました。その結果、塵が円盤中ですでに少しずつ成長を始めていることが確認されました。円盤の形だけでなく、惑星の材料となり得る塵の性質も決定したことで、惑星誕生に至る長い道のりのうちの一コマを目の当たりにできたわけです。

図2:COMICSで観測された HD 142527 の円盤。波長24.5マイクロメートルでの画像。CIAOの観測結果を等輝度線として重ねてある(右)。 (拡大画像)

 また、近赤外線での観測では見えにくかった、円盤の中心部分の様子も明らかになりました。HD 142527 の円盤は、星の近傍にある比較的コンパクトな円盤 (半径約80天文単位) と、顕著にひろがった円盤 (半径約170天文単位) とで成り立っており、なんとこの2つの円盤の間には物質が存在しない「すきま」領域があるのです (図3)。外側の円盤は東西に分かれた非対称な輝度分布になっています。中間赤外線の2波長での画像を解析した結果によると、この非対称な構造は、物質の多少ではなく、すき間を持つ円盤が観測者の視線方向に対して傾いていることに起因すると考えられます。つまり、円盤が傾いていることで、外側の円盤の内壁が東側でしか見えないのです (図3)。また、内側と外側の円盤を隔てるすきまは、円盤の中ですでに惑星が誕生しており、その惑星が軌道に沿って円盤物質を蹴散らしたために作られた可能性もあります。すきまは、このように惑星や別の伴天体により、多くの円盤で作られると考えられていますが、直接撮像でとらえた例はまだわずかです。今回、初めて鮮明に円盤の姿をとらえたことが、この天体を含む同種の天体のさらなる観測を促すことは間違いありません。研究チームとしても、すきまの成因を今後も続けて究明していきたいと考えています。このような観測により、原始惑星円盤の進化の要因を解明する、重要な手がかりが得られるはずです。

図3:波長24.5マイクロメートルにおける東西方向の明るさ分布 (上) と、今回の観測全体から推定される HD 142527 原始惑星系円盤の大局的な構造 (下)。コンパクトな円盤と顕著にひろがった円盤とで成り立っており、これらの間にすきまがあると考えられる。 (拡大画像)

 この観測成果は、米国のアストロフィジカルジャーナル誌 (1月10日号:636巻L153ページ、および6月20日号:644巻L133ページ) に掲載されました。


【研究グループ代表者】
CIAOによる観測:深川美里 (名古屋大学、学振研究員)、田村元秀 (国立天文台、助教授)
COMICSによる観測:藤原英明 (東京大学、大学院生)、本田充彦 (宇宙航空研究開発機構、学振研究員)

この研究は、文部科学省科学研究費特定領域研究「太陽系外惑星科学の展開」によるサポートを受けています。


注1: 1マイクロメートル (= 1μm) は、1ミリメートルの1000分の1。
注2:距離650光年の天体を観測した場合、26天文単位より大きい構造は判別可能であることを意味します。
注3:太陽と地球との距離 (約1億5000万キロメートル) を1天文単位 (= 1 AU) と呼びます。カイパーベルト天体は太陽から約30から50天文単位離れたところをまわっています。

 

 

 

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