観測成果

すばる、木星の近傍を回る衛星の起源に迫る

2004年12月23日

 国立天文台、ハワイ大学、東京大学の研究者からなるチームは、木星の近くを回る小衛星をすばる望遠鏡および NASA 赤外線望遠鏡で観測し、小衛星が現在の位置で形成されたのではなく、外から取り込まれたことを世界で初めて突き止めました。この結果は、まだ謎の多い惑星・衛星の形成過程の理解に対し、重要な示唆を与えると期待されます。この成果は2004年12月24日付け米国科学雑誌 Science に掲載されました。



 木星をはじめとする惑星は、太陽系が生まれたときに太陽の周りを回っていたガスや塵が集まって形成されたとされています。一方、誕生して間もない木星 (原始木星) 周辺はガスや塵でできた円盤が取り囲み、木星を中心としたミニ原始太陽系のような状態だったという考えが有力です。ガリレオ・ガリレイが見つけた4つのガリレオ衛星 (内側からイオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト) は、この円盤の中でガスから凝縮した塵などが集まってできたと考えられています。

 木星にはガリレオ衛星の他に、イオより内側を回っている小さな衛星が4個 (図1、2) と、ガリレオ衛星の外側を回っている衛星が55個見つかっています。外側を回る衛星は軌道の特徴から木星が形成されたときに捕獲されたと考えられている一方、内側を回る4つの小衛星の起源には2通りの説が提案されていきました。一つの説はその軌道の特徴から、ガリレオ衛星と同様に現在の位置に相当する原始木星系円盤内で凝縮した塵からできたというものです。もう一つの説は、反射率や不規則の形状が小惑星と似ていることから、外側を回る衛星と同様に太陽の周りを回っていた小天体が木星に捕獲されたとする考えです。これらの小衛星は小さいため暗く、また木星からの非常に強い散乱光が邪魔をして、地球から観測を行うことは困難といえます。探査機のボイジャーガリレオが鮮明な写真を撮っていますが、その組成を解明するための観測データがこれまでほとんどなく、小衛星の起源は謎のままでした。

 
アマルテアと木星のリング
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 国立天文台の高遠徳尚主任研究員らの研究チームは、これらの小衛星のうち 2 衛星 (アマルテア、テーベ) について、世界で初めて赤外線スペクトルの観測に成功しました。観測が難しい波長 3 マイクロメートルより長い波長域は、すばる望遠鏡に取り付けた赤外線撮像分光装置 IRCS を用い、短い波長域は広い波長域を一度に観測できる NASA 赤外線望遠鏡の観測装置 SpeX を用いて、それぞれの望遠鏡の特色を活かした観測が実施されました (図3)。

 データを解析した結果、研究チームはアマルテアに水の存在を示す波長 3 マイクロメートル付近の深い吸収帯を発見しました (図4)。この「水」は水そのものではなく、含水鉱物に取り込まれている水と考えられます。比較的低温で形成される含水鉱物の存在によって、アマルテアの形成場所は原始木星系円盤内で非常に高温であったとされる現在の位置ではなく、もっと遠くの低温の環境であったことが明らかになりました。

 アマルテアの表面は、ガリレオ衛星の一番外側を回っているカリストの氷の少ない領域と非常に良く似ています。ガリレオ衛星が生まれたころは「微衛星」がたくさん存在していたとされることから、木星本体に大量に吸い寄せられた微衛星の生き残りがアマルテアなのかもしれません。あるいは、これらの小衛星は木星本体が成長してゆく過程で木星に落ち込んで行った「微惑星」の残骸とも考えられます。事実アマルテアやテーベのスペクトルは、木星付近で太陽の周りを回っている小惑星や、そこから来たと考えられている隕石とも似ています (図5)。

 今回の観測では、小衛星が原始木星系円盤内の遠い領域から来たのか、木星系の外から来たのかは区別がつきませんが、いずれにしても現在の場所でできたのではなく、別の場所で形成されて、現在の位置に落ち着いたことを明瞭に示すことが出来ました。本結果は、木星本体や衛星の形成過程の理解に大きく貢献すると期待されます。

参考文献:N. Takato, S. Bus, H. Terada, T-S. Pyo, and N. Kobayashi,“Detection of a Deep 3-μm Absorption Feature in the Spectrum of Amalthea (JV),” Science Vol. 306, 2224 - 2227.




  図1 木星の内側を回る小衛星の軌道
  アマルテアはイオより内側、木星半径の2.5倍のところを12時間で公転している。木星の強力な潮汐力のため、自転は公転と同期しており、常に同じ面を木星に向けている。テーベ、アマルテア、メチス、アドラステアの4衛星は微小隕石の衝突を絶えず受けており、それによって放出されるダストが木星のリングを作っているとされる。
注: 木星本体と衛星軌道の大きさの関係は正しく描かれているが、衛星の大きさは正確ではない。 (衛星、木星の画像はNASA/JPL-Caltechより)
 
  図2 木星の内側を回る小衛星とカリスト
  探査機ガリレオが撮影した、木星の内側を回る4つの小衛星とカリスト。上部左からメチス、アドラステア、アマルテア、テーベとカリスト (衛星の大きさは、ほぼ正しい比率で示してある)。アマルテアの形は不規則で、大きさは 270 x 165 x150 km と九州がほぼ入る大きさである。表面物質は、カリストの氷が少ない領域と非常に似ていることがわかった。 (衛星画像はNASA/JPL-Caltechより)
 
  図3 アマルテアと木星のリング
 画面下の明るい天体がアマルテア。木星とアマルテアを直線状に結んでいる光が主リング。地球から見てリングを真横から眺める時期だったため、直線状に写っている。アマルテアを観測装置に導入する際に、波長2.2マイクロメートル (K バンド) ですばる望遠鏡で撮影したもの (世界時2002年12月10日12時49分撮影、露出時間5秒)。
 
  図4 アマルテア、テーベの反射率とカリスト、小惑星との比較
 アマルテア (赤線),テーベ (青線) は、カリストの氷が少ない領域のスペクトル (黒線) と非常に良く似ている。波長 3 マイクロメートル付近に見られる深い吸収帯は、含水鉱物の存在を示している。波長2.5マイクロメートルまでのスペクトルは、木星の軌道付近に多く存在する D タイプ小惑星 (ピンク色の領域) とよく似ている。
 
  図5 アマルテアと隕石の反射率の比較
 アマルテアの反射スペクトル (黒) と炭素質球粒隕石との比較。タギッシュ・レイク隕石 (a:緑線) は D タイプ小惑星がその母天体と考えられている。マーチソン隕石 (b:青線) とイヴナ隕石 (c:赤線) も太陽系初期の始原的な物質で出来ていると考えられている。イヴナ隕石の赤点線は、3マイクロメートルより長波長側を比較するために、スケーリングを変えたもの。

 

 

 

 

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