観測成果

年老いた星の塵に包まれた安らかな終末

2004年12月15日


画像 (96 KB)

天体名:惑星状星雲 BD +30 3639
使用望遠鏡:すばる望遠鏡 (有効口径8.2m),カセグレン焦点
使用観測装置:コロナグラフ撮像装置 (CIAO)
フィルター:J (1.25um), H (1.65um), K(2.2um)
カラー合成:青(J), 緑(H)、赤(K)
観測日時:世界時2001年7月9日
露出時間:各バンド30秒
視野:10"x15"
画像の向き:上が北、左が東
位置:赤経(J2000)=19h 34m 45.23s、赤緯(J2000)= +30度30'58.9"
  (はくちょう座)

 すばる望遠鏡のコロナグラフ撮像装置 (CIAO) がとらえた、一生を終えようと している星の近赤外線画像です。この天体は、惑星状星雲に分類され、こと座環状星雲の仲間です。約5000光年の距離にある天体で、はくちょう座の方向に位置します。中心星の表面温度は4万2千度ほどもあり、太陽の約5万倍の明るさで輝いています。

 太陽のように質量の小さな星は、進化の終末期にガスや塵を宇宙空間に放出するようになり、星の周りに「殻」ができるようになります。BD +303639では、星の外層にある太陽質量の4分の1ほどの物質が900年前に急激に放出され、今 では太陽系の100倍ほどの大きさにまで広がっています。これが中心星に照らされて浮き輪のような形をした惑星状星雲として見えています。可視光では中心星からの光が塵によって散乱されたものを見ることになりますが、赤外線で観測すると、この散乱光に加えて、放出された塵からの放射を直接とらえることができます。コロナグラフ撮像装置(注1)は、地球大気の揺らぎによって乱れる映像を補正する特殊な光学系(補償光学)を用いることで、その塵の分布の様子を極めてシャープにとらえることができました(注2)。

 星の周りに物質を放出する現象は、星の進化に普遍的に見られる重要な現象で、放出されたガスや塵の広がり、形状、質量などが、様々な進化段階にある天体に対して調べられてきました。しかし、どのようなメカニズムによって浮き輪のような形が作り出されるのか、未だに理解されておりません。ASTRON (オランダ) の村川幸史さんらは、これらの観測によって、星の最期の進化の様子を詳しく調べるための研究に現在取り組んでいます。


注1:なお、この観測ではコロナグラフ機能は使用していません。

注2:中心星をすばる望遠鏡高分散分光器(HDS)によって詳しく分光分析したところ、この星によって炭素が大量に作られていることを確認することができました。これらの炭素が、塵の材料に含まれていると考えられています。

 

 

 

画像等のご利用について

ドキュメント内遷移