観測成果
50万光年に渡って伸びた星の帯
2004年11月16日
この記事は東北大学のプレスリリースを転載したものです。
(転載元:http://www.astr.tohoku.ac.jp/~sasaki/thresh.html)
概要
東北大学の谷口義明助教授とカリフォルニア工科大学のニコラス・スコビル博士らのグループは、すばる望遠鏡による観測で、大きな銀河の近くにある破壊されつつある矮小銀河を捉えることに成功しました。そのような銀河はこれまでにハッブル宇宙望遠鏡によって観測された一例しか知られていません。
今回発見された銀河では、50 万光年にも及ぶ、引き剥がされた星が作る帯状の構造が見つかりました。この構造はこれまでに知られていたものと比べてはるかに 長くずっと淡いものでした。このような淡い構造を発見できたのは、すばる望遠 鏡の大きな集光力と優れた解像力のおかげです。この矮小銀河は、将来大きな銀 河に飲み込まれると考えられます。今後、この種の天体の観測を進めることで、我々の銀河系のような大きな銀河がどのように成長してきたのかを知る手がかりが得られると期待されます。
解説
現在広く受け入れられている銀河形成理論によれば、我々の銀河系 (天の川銀河) のような大きな銀河はその周囲にある矮小銀河を飲み込みながら成長していくと考えられています。そうした過程の状況証拠は我々の銀河系でも見つかっており、例えばいて座矮小銀河と呼ばれる銀河から我々の銀河系の潮汐力によって引き剥が されたと考えられる星のグループが観測されています。同様の構造はアンドロメダ銀河 M31 でも発見されています。しかしながら、これらの天体は、既に銀河の破壊がかなり進んだ後の残骸であり、破壊の直接現場を捉えたものではありません。
巨大銀河同士の合体と異なり、矮小銀河の破壊は、銀河自身が暗いために潮汐力で剥ぎ取られた星が作る構造の表面輝度 (注1) も大変暗く、発見されにくくなります。このため、矮小銀河が破壊されつつある現場を直接捉えた観測は、今までにハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ (ACS) で発見された一例しかありませんでした (Forbes et al. 2003, Science, 301, 1217)。
私たちは 2004年の1月から2月にかけて、宇宙の大規模構造に進化を探る目的で、すばる望遠鏡の主焦点カメラを使ってろくぶんぎ座の方向の広視野撮像観測を行 いました。その結果、偶然に、大きな銀河に壊されつつある矮小銀河のニ例目 を発見することができました。今回発見されたケースでは、大きな楕円銀河 (COSMOS J100003+020146) とそれを含むハローによる潮汐力で矮小銀河 (COSMOS J095959+020206) が破壊され、引き剥された星が長大なスケールで帯状に伸びてい る様子がはっきりと見えています。
これらの銀河までの距離は 10 億光年なので、楕円銀河と矮小銀河との距離はおよそ 33 万光年、潮汐力で引き剥がされた星の広がりは差し渡し 50 万光年にも及びます。これは Forbes らが発見したものと比べて5倍以上の長さになります。しかも帯状に伸びた構造の表面輝度は Forbes らが発見したものよりもはるかに淡いものであることが分かりました (1等級以上暗い)。
このように表面輝度が低い構造を発見できたのは、すばる望遠鏡の大きな集光力と優れた解像力のおかげです。今後、この種の天体の観測が進んでいくことで、大きな銀河の成長過程についての手がかりが得られることが期待されます。
(注1) 広がった天体から天球上の単位面積 (一平方秒角 = 一辺が一秒角の正方形の面積。一秒角は一度の 1/3600) あたりに検出されるエネルギー量。
図1: 今回私達が発見した銀河です。左側の大きな楕円銀河 (COSMOS J100003+020146) から伸びる星の帯をたどっていくと、破壊を受けている矮小銀河 (COSMOS J095959+020206) が見つかります。星の帯はさらにそこから伸びて、その端は箒のように広がっています。 |
図2: 比較のため、アンドロメダ銀河を同じスケールで左上に示しました。
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図3: Forbes 博士らによって発見された銀河です。
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図4: 私達が発見した銀河と Forbes 博士らが発見した銀河を同じスケールで比較した図です。銀河から伸びる星の帯の明るさは、今回発見したものの方が暗いにもかかわらず、すばる望遠鏡の素晴らしい集光力のため、はっきりと捉えられています。 |
図5: 今回発見した銀河の天球上での位置を示しました。青色で示されているのがろくぶんぎ座で、その付近の黒い×印が銀河を発見した場所です。
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