観測成果

COMICS が切り開く中間赤外線天文学

2003年10月1日

 冷却中間赤外線観測装置 COMICS (Cooled Mid-Infrared Camera and Spectrometer) は、すばる望遠鏡の観測装置の中でも、最も波長の長い中間赤外線を観測する装置です。COMICS には天体を撮像するカメラに加え、スペクトル観測を行う分光器の機能も備えられています。

 COMICS が観測する波長 10 から 20 マイクロメートル (µm;1µm = 0.001mm) 程度の中間赤外線は、室温の物体からも放射されています。天体の微弱な中間赤外線を観測するために、COMICS では光学系や検出器を直径約 1m の真空容器に入れてマイナス 240 度 (検出器はマイナス 269 度) まで冷却し、装置自身からの放射を抑えるようにしました。

Spectra of newly discovered galaxies 冷却中間赤外線観測装置 COMICS (青い部分はすばる望遠鏡)

 同様に、地球の大気も中間赤外線を非常に強く放射していることから、COMICS による観測の際にはその影響を差し引く工夫をしています。もっとも特徴的な観測手法は、チョッピングと呼ばれるものです。望遠鏡の副鏡の向きを高速に変え、少しだけ違う領域を観測し、そのデータから地球大気の放射の影響を差し引く処理を行います。

Spectra of newly discovered galaxies チョピングによる副鏡の動きと COMICS の検出器でとらえた天体像の動き

 さらに夜空そのものが中間赤外線で明るく光っているため、検出器は短い露出時間で飽和してしまいます。COMICS のカメラでは、8 万画素の画像を 1 秒間に約 10 枚の割合で高速に取得する方法を開発しました。

 宇宙空間にある温められたチリからは、中間赤外線が強く放射されています。たとえば、太陽質量程度の星が生まれると、周りにある円盤 (原始惑星系円盤) のチリが温められて中間赤外線を放出します。そのような天体を COMICS で観測すれば、惑星の形成が進行している円盤内のチリの分布やその進化を詳しく調べることが可能です。また太陽より重たい星は、周りの電離ガスや温められたチリが強く中間赤外線を放射するため、COMICS を用いればこのような星の生まれる現場を捉えることができます。さらに、星は一生の終わりに大量のチリを放出すると考えられています。死にゆく星を COMICS で観測することで、宇宙でチリが作られるメカニズムを明らかにすることもできるでしょう。

Spectra of newly discovered galaxies COMICS による観測のサンプル画像:大質量星形成領域 K3-50A の中の若い星
(Okamoto et al. 2003, ApJ 584, 368-384)

 一方で COMICS が観測する波長帯には、さまざまなチリが放つ特有のスペクトルが含まれています。宇宙空間に広がる有機物質のチリや、地球の岩石やいん石にも含まれるケイ酸塩化合物のチリが放つスペクトルの発見や詳細な観測も、COMICS を用いた重要な研究テーマの一つになっています。

Spectra of newly discovered galaxies COMICS の分光モードにによる Hen3-600A のスペクトル
(Honda et al. 2003, ApJ, 585, L59-63)

 すばる望遠鏡と COMICS は、一生を終えつつある星から星間 空間を通して再び星の誕生へと至る宇宙における物質輪廻の探求、惑星が形成されつつある原始惑星系円盤の研究など、さまざま中間赤外線天文学のシーンで活躍することが期待されます。COMICS 開発グループの岡本美子さん (北里大学) は、「これまで中間赤外線域の天文学は、観測手法や装置開発の難しさゆえにあまり行われてきませんでしたが、COMICS がこの分野の研究をさらに進める大きな力になるでしょう」と話しています。

COMICS の仕様
本体の大きさ、重さ 約 2m × 2m × 2m、約 2トン
検出器 6 個の 320 ピクセル × 240 ピクセル Si:As IBC 検出器
(撮像に 1 個、分光器に 5 個)
ピクセルサイズ 50 ミクロン
ピクセルスケール 0.13 秒角 (撮像)、0.165 秒角 (分光器)
視野 42 秒角 × 32 秒角

 

>> 惑星形成領域から結晶化ケイ酸塩鉱物を発見
 

 

 

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