観測成果

すばる望遠鏡、惑星と恒星のはざまを繋ぐ:木星のわずか6倍の浮遊惑星も直接観測

2011年10月11日

  国立天文台、トロント大学、ダブリン高等研究所、チューリッヒ工科大学の研究者たちからなる国際研究チームが、2つの若い星団において、約 30 個もの新しい褐色矮星を発見しました。褐色矮星は質量が軽いため、太陽のように核融合反応により輝く恒星になれません。今回発見された褐色矮星には、木星のわずか6倍の重さしかない惑星質量天体も含まれ、しかも太陽系の惑星のように恒星を周回せず、孤立して空間を浮遊しています。さらに、星団の一つでは褐色矮星の割合が他の領域よりもずっと多く、普通の恒星の数の約半分に達しています。これらの発見は、ハワイのすばる望遠鏡とチリの VLT という世界最大級の2つの望遠鏡を用いて行われました。

  褐色矮星は、恒星と惑星の境界に立つ、宇宙のキメラともいえる天体です。別名「恒星になれない星」とも呼ばれます。誕生時には高温になるので若い期間は明るく輝きますが、時間とともに冷えて暗くなり、その大気は惑星の大気とそっくりになります。天文学者は、ほとんどの褐色矮星が、恒星と同じようにガスとちりの雲が収縮して、独立して生まれると考えています。しかし、最も小さな褐色矮星の幾つかは、惑星のように恒星の周りで生まれたものの、後に何らかの理由で放出されて、孤立して浮遊しているのかも知れません。

  研究チームは、SONYC(Substellar Objects in Nearby Young Clusters)というプロジェクトを進めてきました。これは太陽に近い若い星団において、恒星よりも軽い天体を系統的に調べ上げるものです。このプロジェクトの一環として、ペルセウス座のNGC 1333 とへびつかい座ロー星のまわりにある若い星団について、すばる望遠鏡により、これまでにないほどの深い撮像観測を可視光と赤外線で行いました。これらの星団は共に年齢約 100 万年というたいへん若いものです。この撮像観測によって、非常に赤い色を示す褐色矮星の候補天体を選び出し、すばる望遠鏡と VLT で分光観測を行いました。そのようにして得られた新しい観測結果が、星団ごとにアストロフィジカルジャーナル誌に2編の論文として出版されます。また本記者発表が行われる週にドイツのガルヒンで開催される国際研究会で発表される予定です。

  『NGC 1333 の星団中に発見された天体は最も軽く、木星質量の6倍しかありません。重さだけで言うと巨大惑星とたいして変わりませんが、この天体は恒星の周りを回っていないのです。そのような浮遊惑星がどのようにして出来たかということは大きな謎です。』とコメントするのは、SONYC チームのアイルランド・ダブリン高等研究所のアレックス・ショルツです。

  この浮遊惑星以外にも、両方の星団で発見された褐色矮星のいくつかが木星質量の 20 倍以下という軽いものであり、近年、直接撮像により恒星の伴星として発見されている巨大惑星の質量と同じ程度であることがわかりました。つまり重さだけで言うと、ふつうの惑星系の惑星たちと変わりがないのです。

  『NGC 1333 の星団中の褐色矮星の数は、他の若い星団よりも多いようです。これは、星の誕生現場の環境が関係しているのかもしれません。』と述べるのは、同じく SONYC チームのカナダ・トロント大学のカロリカ・ムジクです。他の若い星団では、恒星の数は褐色矮星の4倍~8倍もありますが、NGC 1333 ではその比はたった2倍しかありません。この領域は何が特別なのでしょうか。

  『今回の我々の研究結果は、星の誕生現場を調べているので、木星とあまり変わらないような浮遊惑星も恒星と同じように生まれることを示唆しています。別の言い方をすると、自然は惑星質量天体を作る手段を複数持っているように思えます。』と言うのは、同じくトロント大学のレイ・ジャヤワルドハナ、SONYC プロジェクト全体のリーダーです。

  『このエキサイティングな結果は、すばる望遠鏡と VLT のパワーを物語るものです。とくに、すばる望遠鏡の主焦点で天空の広い領域を捉え、数百個のも天体のスペクトルを一度に取得できる FMOS のユニークな観測能力が成功につながりました。』と強調するのは日本側のリーダー、国立天文台の田村元秀です。

  SONYC プロジェクトにはその他に、スイス・チューリッヒ工科大学のビンセント・ギアーズとトロント大学のマリアンジェラ・ボナビータが加わっています。

  これら2編の研究論文およびSONYC関連論文はそれぞれアーカイブサイトでアクセスできます。

<研究論文の出典>

  • Alexander Scholz, Koraljka Muzic, Vincent Geers, Mariangela Bonavita, Ray Jayawardhana, and Motohide Tamura "Substellar Objectsin Nearby Young Clusters (SONYC) IV: A Csensus of Very Low Mass Objects in NGC1333" (リンク)
  • Koraljka Muzic, Alexander Scholz, Vincent Geers, Ray Jayaw ardhana, and Motohide Tamura "Substellar Objects in Nearby Young Clusters (SONYC) V: New Brown Dwarfs in ρ Ophiuchi" (リンク)


figure1

図1: 若い星団 NGC 1333 における若い褐色矮星と浮遊惑星。背景の図は、すばる望遠鏡で得られた可視光と赤外の画像を合成したもの。今回、SONYC サーベイで発見されたものが黄色の丸、以前から知られていたものが白色の丸で囲んである。矢印はこの星団で最も軽い天体で、木星質量の6倍しかない浮遊惑星である。

    高解像度画像
  1. 新発見天体を示す文字、マーク入り
  2. 新発見天体を示すマークおよび画像の縁入り。
  3. 新発見天体を示すマークのみ。
  4. もとの画像のみ。
(画像クレジット:SONYC チーム、国立天文台すばる望遠鏡)

 

figure2

図2: 若い星団 NGC 1333 に発見された代表的な褐色矮星のスペクトル。すばる望遠鏡のファイバー多天体分光器 FMOS で取得された。スペクトルは波長 1670 nmでピークを持つ特徴的な形を示す。ピークの両側は、褐色矮星の大気中にある水蒸気によって吸収されている。水蒸気の吸収は温度の低い天体の方が強く、絶対温度 3000 度から 2200 度に向かって徐々にスペクトルのピークが目立ってくる。SONYC サーベイは、「多くの天体の赤外スペクトルを同時に観測できる」という FMOS の特徴を活かしたものと言える。画像クレジット:SONYC チーム、国立天文台すばる望遠鏡)



画像等のご利用について

ドキュメント内遷移