すばる望遠鏡では、今年暮れから始まる第一期共同利用観測に向けて、望遠鏡や観測装置の調整を引き続き行っています。試験観測により得られた成果は、順次公開をしていく予定です。
今月の特集は、すばる望遠鏡の観測装置、高分散分光器
HDS (High Dispersion Spectrograpgh) です。HDS は、波長が 300 ナノメートルから
1000 ナノメートル (1ナノメートルは十億分の1メートル) までの可視光を10万もの波長 (色) に分解し観測できる分光装置です。この性能は、エッシェル分光器と呼ばれる機器により実現されています。
HDS は、縦と横が約6m、高さが約3m、重さは約6トンもある大型の装置です。そのため広いスペースが確保でき、安定しているナスミス焦点に設置されます。ナスミス焦点は、すばる望遠鏡の左右に二ヵ所あります。もう一方のナスミス焦点には、OHS
(CISCO) が置かれています。
日本における調整が終わり、分解された HDS は今年3月にすばる望遠鏡のナスミス焦点に運び込まれました。通常、観測装置は、マウナケア山頂に運ぶ前に山麓施設のシミュレータ室において機能を確認します。しかし
HDS は大きいこともあり、山麓施設を経ずに直接ナスミス焦点に設置されました。約3週間かけて組み上げられたHDS は、ファーストライトに向けてに最終調整が行われました。
7月1日、HDS 開発グループのメンバーが見守る中、HDS は恒星の分光観測に成功し、ファーストライトを迎えました。下の図は、ファーストライト時に
HDS を制御しているコンピュータの画面を写したものです。HDS の試験試験は、その後一週間にわたって続けられました。
HDS は、話題となったリニア彗星の観測も7月5日に成功しました。下の図は、エッシェル分光器とは別のカメラで撮影したリニア彗星の姿です。中央の黒い部分はスリットと呼ばれ、HDS
はここに入った光を分光観測します。この図より、現在彗星のコマの部分を観測していることがわかります。
HDS の分光観測により、得られる最初の画像は下の図のようです。HDS は非常に広い波長域を一度に分光することができるため、結果を途中で折り曲げて記録する必要があります。これは、IRCS
にも利用されているクロスディスパーザーと呼ばれる機器により行われています。
スペクトルが横線のように見えるているのは、彗星からあらゆる波長の光が出ていることを意味します。これは彗星のコマが、太陽光を反射しているためです。ところどころにある縦線は、彗星に含まれる特定の原子や分子から発せられる光
(輝線) です。この波長を調べることにより、彗星がどのような物質により構成されているのか知ることができます。上図の下方にある四角い範囲を取り出して解析したものが、下のスペクトルです。このスペクトルの図より、リニア彗星に
C2 や NH2 が存在していたことがわかります。
今後のHDS による研究としては、銀河系や遠方の星雲の中にある年老いた星の元素組成を調べて物質の進化を解明することや、星のふらつきを高い精度で測定し星の周りの惑星を探査することなどが計画されています。