| 東京大学、広島大学、国立天文台などの研究者からなるグループは、すばる望遠鏡と微光天体分光撮像装置(FOCAS)を用いてガンマ線バーストを伴わない極超新星(極端に爆発の規模の大きい超新星)のスペクトル撮影を行い、これが高速ジェットを激しく噴出している爆発を横からみた姿である証拠を初めて発見しました。この結果は、極超新星の大部分は高速ジェットを伴うガンマ線バースト母天体であり、ジェットが我々に向いている場合にのみガンマ線バーストとして観測されるという関係を明快に示すものです。
真空の宇宙空間における爆発現象は、特別な要因が無い限り、球対称になると考えるのが自然です。しかし、中には球対称とはかけ離れた爆発と考えなければ説明できない天体現象も観測されていて、爆発の正体を知る上で重要な要素となっています。そのひとつが、宇宙の中で最もエネルギーの大きな爆発現象とみられるガンマ線バーストです。その正体は長らく謎でしたが、宇宙の遠方で起こる現象であることが明確になるにつれ、そのようなエネルギーを等方的に放出するのはあまりに無理があると考えられました。そこで、例えば非対称な爆発で起きる高速ジェットがたまたま地球の方向に向いていると、ガンマ線バーストとして観測されるのではないか、と考えられるようになりました。
この仮説に対する状況証拠は、最近の研究で徐々に揃いつつありました。ガンマ線バーストの中でもガンマ線放出が比較的長く続く天体については、近年、超新星爆発現象の中でも特に爆発エネルギーの大きい極超新星と関連していることがわかってきました。国立天文台および東京大学などからなる研究グループは、2003年に出現したガンマ線バーストGRB
030329と極超新星SN 2003dhの爆発が、場所と時刻の両方で一致することを示しました(注3)。さらに同グループは2002年に出現した極超新星のひとつSN
2002apのすばる望遠鏡の観測から、高速ジェットの証拠を示唆する偏光成分を発見し、これらをもとにガンマ線バーストを統一的に説明できる高速ジェットを伴う重力崩壊型超新星モデル(注4)の提唱を行いました。
これらのモデルからの予測によれば、極方向に高速ジェットを伴う非対称な爆発を起こす超新星では、酸素などの比較的軽い元素を赤道方向にドーナツ状により多く放出します。超新星を極方向から見ると、ジェットの活動性によりガンマ線バーストとして観測されますが、赤道に近い方向から見るとガンマ線バーストとしては見えません。一方、酸素に注目すると、ドーナツ状に拡がる成分のドップラー効果が場所ごとに違うため、極方向から見た場合と横からみた場合とでスペクトル輝線の形に大きな違いが現れます。つまり、極方向から見ると輝線は一つ山になりますが、真横から見た場合にはドーナツ状に拡がる酸素のうち、我々に近づいてくる成分と遠ざかる成分に対応して、輝線が二つの小さいピークを持つと予想されます(注5)。
今回の超新星SN 2003jd(図1)のすばる望遠鏡による観測は、まさに時宜にあった成果を上げたといえます。この超新星は重力崩壊型のスペクトルタイプを持ち、爆発のエネルギーが非常に大きい極超新星に分類されています。爆発から約一年が経過し、放出物質の内部まで見通せるほど稀薄になった2004年9月12日(世界時)にこの超新星のスペクトル観測を行ったところ、膨張する稀薄なガスに含まれる酸素が放射する輝線スペクトル線(波長630,636nm)の形状に、著しい二重ピーク構造が予測どおり発見されたのです(図2、注5、注6)。これは世界でも初めてとなる発見であり、極超新星爆発が球対称な爆発ではなく高速ジェットを伴う非対称な爆発であるというモデルと明快に合致し、極超新星が相対論的なジェットを伴うガンマ線バースト現象の正体であるとする当研究グループの予測を立証する成果です。
この研究成果は米国の学術論文誌 サイエンス5月27日号に掲載されます。
(注1)東京大学、広島大学、国立天文台の他、独マックスプランク高等研究所、伊トリエステ天文台、米カリフォルニア大学バークレー校、米プリンストン高等研究所、伊パドゥバ天文台、中国国立天文台、宇宙航空研究開発機構、総合研究大学院大学、米国立光学天文台、米ローレンス・バークレー国立研究所、米カリフォルニア工科大学のメンバーを含むグループからなります。
(注2)超新星 SN 2003jd は、2003年10月25日(世界時)に米リック天文台超新星探索チーム/自動撮像望遠鏡KAIT(Katzman
Automatic Imaging Telescope)によって、渦巻き銀河MCG -01-59-21(地球からの距離は約3億光年)の中に発見されました(図1)。その後の観測により、SN
2003jdは、SN 1998bwやSN 2003dhなどによく似た特異な重力崩壊型のスペクトルを持つことがわかりました。これらの超新星は爆発の規模が特に大きく、極超新星とも呼ばれています。
(注3)「ガンマ線バーストは極超新星が起源?!」すばる望遠鏡観測成果
2003年6月13日掲載 http://www.naoj.org/Pressrelease/2003/06/j_index.html
(注4)非常に重い星(太陽の8倍以上)は生涯の最期に中心部が重力によって潰れ、それに伴う激しい爆発が超新星として観測されると考えられています。これは重力崩壊型超新星と呼ばれます。極超新星はその中でも特に重い星(太陽の20倍以上)が起源であると考えられています(上記注3参照)。
(注5)両極方向にジェット状の高速成分を伴う非球対称状の超新星爆発のモデルを用いた元素合成計算によると、図2に示されるように、鉄は主としてジェット方向に絞られて放出されますが、酸素は赤道(横)方向へディスク状に放出されます。この場合、極方向から見た場合と、横から見た場合とでは、輝線スペクトルの形状が大きく異なります。SN
2003jdが示した星雲期の酸素スペクトル輝線(波長630,636nm)は、SN 1998bwなど他の重力崩壊型極超新星と異なり、2つの小さいピークを持つことがわかりました(図2の右下のグラフ)。これは横方向から見た場合のモデル計算結果と良く似ています。SN
2003jdに付随するガンマ線バーストが見つかっていないことを考慮に加えると、今回の結果は、ガンマ線バーストがジェットを伴う非球対称状の超新星爆発に伴って発生するというモデルの正当性をより確実にするものと言えます。
(注6)モデル計算によると、一様な極超新星のサンプルに対しては、ひとつ山輝線よりも二つ山輝線の方がより多く見つかると予想されますが、これまで見つかった極超新星に置いてはひとつ山しか見つかっていませんでした。これには、ガンマ線バーストを伴わない極超新星よりもガンマ線バーストを伴った極超新星が見つけやすい、という観測的なバイアスが影響したためであろうと推察されます。
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図1 すばる望遠鏡/FOCASで撮影した超新星 SN 2003jd と、その母銀河 MCG
-01-59-21(距離約3億光年)の様子。撮影はスペクトル観測と同じ2004年9月12日にBバンド(露出30秒)とRバンド(同5秒)とで行われ、図はその2枚の画像をカラー合成したものである。写真の向きは、上が北で左が東となっており、スケールは横が約3.2分角、縦が約2.3分角である。銀河中心の左下に黄色の線で指示してある星が、SN
2003jdである。 |
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図2 非球対称爆発モデルの計算結果(左下)と、観測された酸素の輝線スペクトル線とモデル計算結果との比較(左上および右下)。爆発モデルの図において、上下方向にジェット状の高速成分が放出されている。青色は鉄元素、茶色は酸素元素の分布を示し、黒線のコントアは放出物質の密度を示している。これから、酸素が赤道方向に濃いディスク状の分布をなすことがわかる。さらに、図中左上のグラフに、過去に観測された極超新星
SN 1998bwのスペクトル線(黒)と極方向から望んだ場合のモデル計算で得られたスペクトル線(赤)が示してあり、右下のグラフに、SN
2003jdで観測されたスペクトル線と赤道方向から望んだ場合のモデル計算結果との比較が示してある。スペクトルのピーク付近の形状をよく見ると、SN
1998bw は極方向から望んだ場合の結果と、SN 2003jdは横方向から望んだ場合の結果と、それぞれ良く似ていることがわかる。これはSN
1998bwがガンマ線バースト GRB 980425に付随して現れた一方、SN 2003jdにはガンマ線バーストが付随しなかったこととも矛盾していない。 |
2005年5月26日 |