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天体名 :原始星M17-SO1
観測装置:近赤外線分光撮像装置(IRCS)+波面補償光学装置 (AO)
観測日時 :世界時2003年8月15日(上)、2003年5月23日(下)
視野 :14.8秒角 x 7.4秒角
画像の向き :上から時計回りに56°が北
位置 :赤経(J2000)=18h20m26.18s、赤緯(J2000)=-16°12'
10.2" (いて座)
説明 :原始星M17-SO1の近赤外線画像。(上)赤:波長2.1μm、緑:1.6μm、青:1.3μmの擬似カラー合成画像。星を覆う雲(エンベロープ)の中の塵が背景光を遮ることにより、その姿がシルエットとして浮かび上がって見える。エンベロープの隙間から漏れ出た中心星の光が周囲で散乱して青く広がるのが見える。(下)水素の赤外電離輝線Brγ
(波長2.166μm)の画像。Brγ輝線は背景光の中にだけ含まれるため、中心星の光に邪魔されずエンベロープのシルエットの微細な構造を見ることができる。
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東京大学、国立天文台、宇宙航空研究開発機構、茨城大学、中国科学院紫金山天文台、千葉大学の研究者からなるグループは、M17領域で生まれつつある星を観測し、星を覆う雲(エンベロープ)の姿をシルエットとして鮮明にとらえることに成功しました。観測の結果、エンベロープは単純な形態をしておらず、外に向かって厚みを増すトーラスと両極方向に開いた円錐状のシェルからなる多重構造を持つことを世界で初めて明らかにしました。この成果は2005年4月21日付け英国科学雑誌Natureに掲載されます。
46億年前、我々の太陽系はガスと塵からなる濃い雲の中で産声をあげたと考えられています。地球上のあらゆる物質は、この原始太陽系星雲に起源をたどることができます。雲の中で原始太陽が形成されると、重力により周囲のガスと塵は原始太陽に向かって落ちていきます。しかし、一部は重力と遠心力が釣り合うために原始太陽まで落下せず、ある半径の軌道を回り始めます。このようにして形成されるガスと塵の円盤を原始太陽系円盤と呼びます。ガスと塵は円盤の中で衝突を繰り返しながら凝集し、地球をはじめとする惑星を形成したと考えられています。太陽系創生期の姿を探るために、そして、一般に太陽系のような惑星系が作られるメカニズムを探るために、46億年前の原始太陽系と似た若い星の観測的研究が盛んにおこなわれています。
原始太陽系円盤は、Tタウリ型星と呼ばれる生まれて100万年後の若い星に付随していると考えられています(星の進化の説明)。原始太陽系円盤がどのように作られたかを調べるには、Tタウリ型星に進化する前の段階にある原始星(生まれて10万年)を観測する必要があります。原始星は星と円盤はガスと塵の雲(エンベロープ)に覆われており、エンベロープが中心の星の近くに降り積もることにより原始太陽系円盤を形成します。そのため、エンベロープを持つ原始星は惑星の成り立ちを考える上で欠かせない研究対象とされています。しかし、これまでの観測方法では、エンベロープが中心星や円盤に流れ込む様子を詳細に調べることは困難でした。
東京大学の酒向重行研究員らの研究グループは、明るく広がる星雲の手前に原始星が位置する場合、星雲からの赤外線は星をとりまく星間雲やエンベロープを透過するため、まるでレントゲン写真のようにエンベロープの構造を背景光のシルエットを使って調べられることに着目しました(図1)。研究グループは、すばる望遠鏡に取り付けた近赤外線撮像分光装置
IRCSと波面補償光学装置
AOを用いてM17領域において探査をおこない、 直径1万2000天文単位(2兆キロメートル、我々の太陽系の約150倍の大きさ)におよぶ巨大な蝶型の赤外線シルエット天体を発見しました。(図2、3、4)[1]。研究グループはこのシルエット天体をM17-SO1(M17-Silhouette
Object #1)と名付けました。引き続き、 すばる望遠鏡に 中間赤外線撮像分光装置
COMICSを取り付け、中間赤外線でM17-SO1の追観測を行いました(図5)。また、国立天文台野辺山宇宙電波観測所のミリ波干渉計を用いて、M17-SO1の一酸化炭素(CO)分子ガスの観測も行いました(図6)。近赤外線、中間赤外線、電波のデータを解析した結果、研究グループはM17-SO1が太陽の2.5から8倍の質量を持つ原始星で、蝶型のシルエットはこの星のエンベロープを赤道面から見た姿であることを明らかにしました。
赤外線シルエットの観測の結果、中心星の近傍の領域から6,000天文単位離れた遠方に至るまでの広い範囲でエンベロープの塵の分布の情報を得ることに成功しました(図7)。特に水素の赤外電離輝線(Brγ波長2.166μm)のフィルターを使った観測により、これまでおこなわれてきた中心星の散乱光を使った観測(原始星の近赤外散乱光の観測例[2])では見ることができなかった、中心星の近傍のエンベロープの微細な構造まで調べることができるようになりました。研究グループは赤外線シルエットの濃淡と形状の解析から、エンベロープはこれまで考えられてきたような単純な形態をしておらず、いくつもの要素からなる多重で複雑な構造を持つことを世界で初めて明らかにしました(図8)。
中心星の赤道面には外に向かって厚みを増すトーラス構造が広がり、中心星の近傍には極方向に開いた円錐状の薄いシェルが存在することがわかりました。このエンべロープの多重構造の発見は、エンベロープから円盤へ物質が流入する過程を解明する大きな手がかりになると期待されます。我々の太陽系も生まれて間もない頃はM17-SO1と同じような複雑な姿のエンベロープをまとっていたであろうと、研究グループは考えています。
今後も、赤外線波長に高い感度と解像度を持つすばる望遠鏡を用い、M17-SO1のようなシルエット天体の探査をおこない、原始太陽系円盤が形成されたメカニズムを明らかにしていきます。
掲載誌:
酒向 重行(東京大学), 山下 卓也(国立天文台), 片ざ 宏一(宇宙航空研究開発機構), 宮田 隆志(東京大学),
岡本 美子(茨城大学), 本田 充彦(宇宙航空研究開発機構), 藤吉 拓哉(国立天文台), 寺田 宏(国立天文台),
鎌崎 剛(東京大学), Zhibo Jiang(中国科学院紫金山天文台), 花輪 知幸(千葉大学), 尾中
敬(東京大学), “No high-mass protostars in the silhouette young
stellar object M17-SO1.” Nature 2005 Vol.
436.
[1] この天体は、日本・中国の共同研究チームによる発見とほぼ同時期に、独立にヨーロッパの共同研究チームによっても発見され報告されました。
R. Chiniら, “The formation of a massive protostar through
the disk accretion of gas.” Nature 2004 Vol.
429, 155 - 157.
[2] D. L. Padgettら, “HUBBLE SPACE TELESCOPE/NICMOS Imaging
of Disks and Envelopes around Very Young Stars.” The
Astronomical Journal 1999 Vol. 117, Issue 3,
1490 - 1504.
[3] Z. Jiangら, “Deep near-infrared survey toward the M17
region.” The Astrophysical Journal 2002 Vol.
577, 245 - 259 .
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図1 赤外線によるシルエット観測の原理
M17領域には大質量星が放つ高いエネルギーの光によってガスが電離された領域が広がっています。一方、大質量星から遠く離れた場所では、ガスは分子の状態にあり、塵とともに星間雲を形成しています。
星は星間雲の中で分子ガスと塵の凝集によって生まれると考えられています。研究チームが観測したM17領域の南西部(図3)では、星間雲が電離領域の前に覆いかぶさる位置関係にあります。
電離領域から放たれる可視光線(青)は星間雲によって遮られますが、赤外線(赤)は雲を透過して観測者まで届きます。従って、星間雲に埋もれた原始星を赤外線で観測することで星間雲やエンベロープを背景光のシルエットとして観測することが可能になります。
原始星もまた赤外線を放射するため、赤外線でみた画像は図2上のようにエンベロープによる背景光のシルエットに中心星の光が重なったものとなります。水素の赤外電離輝線(Brγ)は背景の電離領域からのみ放射されます(緑)。
従って、赤外電離輝線の画像では、中心星の光に邪魔されずエンベロープのシルエットの微細な構造を見ることができます(図2下)。 |
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図2 原始星M17-SO1の近赤外線画像
すばる望遠鏡に近赤外線撮像分光装置
IRCSと波面補償光学装置
AOを取り付けて取得した画像。 (上)近赤外線広帯域フィルター赤:Kバンド(波長2.1μm)、緑:Hバンド(1.6μm)、青:Jバンド(1.3μm)による擬似カラー合成画像。エンベロープによるシルエットと、星のまわりの塵によって散乱された中心星の光が重なって見えます。
(下)水素の赤外電離輝線Brγ(波長2.166μm)の画像(連続光成分は除去済み)。Brγ輝線は背景光の中にだけ含まれるため、中心星の光に邪魔されずエンベロープの微細な構造を見ることができます。両画像は14.8秒角
x 7.4秒角の同視野。 |
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図3 M17-SO1付近の広域近赤外線画像(白枠なしの画像、M17-SO1にコントラストを調整した画像)
白枠a、b、cはそれぞれ図2、5、6の画像領域を示しています。すばる望遠鏡に近赤外線撮像分光装置
IRCSと 波面補償光学装置
AOを取り付けて取得されました。近赤外線広帯域フィルター赤:Kバンド(波長2.1μm)、緑:Hバンド(1.6μm)、青:Jバンド(1.3μm)による擬似カラー合成画像。
視野は1分角 x 1分角。画像の上が北。画像右下に広がる星間雲の中にM17-SO1が位置します。青白い色の背景光は星間雲の塵の中を通ることにより赤みがかって見えています。
画像中心左の明るい星をAOガイド星に用いました。
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図4 M17領域(いて座、距離約5,000光年)の広域画像
(左上図)東京大学木曽観測所105cmシュミット望遠鏡に2kCCDをつけて得られたM17領域の可視光画像(B,V,R)。
(右上図)名古屋大学を中心に建設された南アフリカ1.4m赤外線望遠鏡IRSFに近赤外3色同時撮像サーベイ用カメラ
SIRIUSをつけて得られたM17領域の近赤外線画像(J,H,K)[3]。 (左下図)広角カメラによる夏の天の川の写真。アマチュア天体写真家の加藤詩乃氏撮影。(右下図)図3と同じ画像。M17領域には可視光線では東西に伸びる明るい星雲が見えます(左上図)。近赤外線では南北に伸びる明るい星雲も見えてきます(右上図)。M17-SO1は、この南北に伸びる赤外線星雲の中に発見されました(右上図白枠内)。
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図5 M17-SO1の中間赤外線画像
すばる望遠鏡に中間赤外線撮像分光装置
COMICSを取り付けて得られた波長12.8μmの中間赤外線画像。視野は14.8秒角 x 14.8秒角(図3参照)。
電離領域からの中間赤外線を背景光としたシルエットが見えます。中間赤外線のシルエットは水素の近赤外電離線(Brγ)のシルエットと同じ形をしています。エンベロープの中心に中間赤外線源が見られないことから、M17-SO1の中心星は大質量星でないことがわかりました。
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図6 M17-SO1の一酸化炭素(CO)分子ガスの分布
国立天文台野辺山宇宙電波観測所のミリ波干渉計を用いて、M17-SO1とその付近の一酸化炭素(13CO)分子ガスを観測しました。
(上図)一酸化炭素(13CO)分子ガスの放射強度を等高線で、近赤外線で見たシルエットを擬似カラーで示しています。M17-SO1と周りを取り囲む星間雲からCO分子ガスの放射を検出しました。
(下図)CO分子ガスの運動を示しています。CO分子ガスの視線方向の速度を色で表しています。赤色が地球(観測者)から遠ざかる運動、青色が近づく運動を意味します。速度の分布から、CO分子ガスがM17-SO1の周りを回転していることがわかりました。 |
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図7 M17-SO1のエンベロープの特徴的な構造
水素の赤外電離輝線(Brγ)を背景光にしたエンベロープのシルエットを観測する手法により、これまで見ることのできなかったエンベロープの塵の微細な分布構造が明らかになりました。
- 蝶のように外に向かって厚みを増す構造(フレア構造)
- フレア構造が2つの成分(内側と外側)からなる構造
- 4本の細い腕構造
- 腕構造がフレア構造から分離している構造
- 中心星の近傍の2本のアンテナ構造
これらの特徴から推測されるM17-SO1のエンベロープの立体モデルを図8
に示します。 |
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図8 M17-SO1のエンベロープの立体モデル
星周円盤(紫)の面(赤道面)から観測しているものとします。断面を見るために立体モデルの一部を切り取ってあります。
- 赤道面には、中心星と円盤を取り囲むフレア状トーラス構造(青、緑)があります。
- フレア状トーラス構造は密度の薄い外側の部分(青)と密度の濃い内側の部分(緑)からなります。
- 両極方向には、おわん形の殻(シェル)構造があります(赤)。赤道面の方向から観測した場合、薄いシェルの端が強調されて4本の腕構造として見えます。半透明のおわんを横から見たときに、縁の部分がより白く濁って見えるのと同じ原理です。
図2上の画像では、シェル構造の内側で散乱した中心星の光が青く広がって見えています。
- シェル構造はフレア状トーラス構造から分離しています。
- 図上側の極方向には、アンテナ構造に相当する開口角が狭いシェル構造があります。
フレア状トーラス構造は、エンベロープの物質が中心星の重力によって赤道面に沈み込んだために作られたと考えられます。シェル構造は、中心星から噴き出した分子アウトフロー(星風)やジェットが、極方向に分布する物質を外側へはき寄せたことにより作られたと考えられます(参考図、すばる望遠鏡によるジェットの観測例)。
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2005年4月20日 |